終業式の終わった、静かな学校の屋上に彼女は居た。一人きりの屋上で、頭にはあの、五月に白石に渡したシュシュと色違いの白いそれがちょこんとのっていた。ポニーテールにした髪は、風に揺られてふわふわと宙を舞う。夏服のスカートも、一緒に風の中で踊っているようだった。

「ふんふん」

かすかな声は鼻歌である。しかしそれが何の歌なのか、誰も知らない。
背の高い校舎の屋上からは、テニスコートが良く見えた。黄色の小さな小さなボールを追いかける白石の姿が見える。

「ふんふん」

白石の包帯が巻かれた左手には、真っ赤なシュシュが飾られていた。一時期、そのせいで白石に恋人が出来たとの噂が飛び交い、クラスで泣き出す女子も出たくらいだった。しかしそれを白石があっさり否定すると、女子のそれはまるで風のように消えていった。彼女はそれを見て、くすくすと笑うだけだった。

「ふんふんふん」

空を見た。彼女は待っているのだ。彼らを。

「……さみしい」

一人はさみしい、彼女はうわごとのようにつぶやいた。誰もいないから誰の記憶にも残らず、そこにこだまするわけでもない。それでも彼女は満足だった。今は、あの、自分よりずっとずっと低いところでボールを追いかける、白石がこちらに気付いたのだから。
普段は見せない、なんだか驚いたような表情で、白石は彼女を見ていた。彼女はにこりと笑って、笑顔で彼に手を振るのだ。

「……ちっちゃい白石はかわいいし、絶対手が届かない」

だから、屋上から彼を見ていたわけだ。

(彼女と目があった瞬間、体中の汗がとかされていくような、そんな心地の良い涼しさを感じた。今まで追いかけていたボールが視界から姿を消し、彼女しか見えなくなるのだ。こんなにも離れているというのに、彼女の表情ははっきり見える。彼女は笑顔であった。まるで星を見上げるように、白石は彼女と言う物体に視線を送り続けた)

「私は、ここから見ているだけでいいの」

にっこりと笑った彼女、伸ばした右腕は、力を失って落ちた。


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