In 教卓。
直立の状態からそのまましゃがんでーみたいな、そんなのあるじゃん、そんなやつ。私は今、その態勢で教卓の中に隠れている。別に新手の筋トレでもなんでもない。両足をブルブルさせてまでこの状態をキープし続けなければならない理由が、そこにはあったのだ。

「あ、荒北くんが、好きです...」

放課後、黒板の日付を明日のものに書き換えるという最後の仕事を終え、さあさあ帰ろう、そんな時。廊下に見えたのは、教室を目指して歩いてくる荒北だった。気取った元ヤンを驚かせてやろうと、教卓の下に隠れた私。この時の態勢を、今こんなにも悔やむことになるとは思いもしませんでした...。荒北が教卓へと入ってくる音がして、どうやって驚かせてやろうかと私の顔が史上最強にキモくなった瞬間、時が止まった。可愛い声が荒北を呼ぶのが聞こえたのである!声の主はすぐにわかった。うちのクラス随一のかわい子ちゃん、小野寺さん。小さくて守りたくなるような、まるでハムスターのような(褒めてるよ!) 容姿、そして声も可愛いなんて人生イージーモードな彼女の予想外の登場に、私の頭はビビリまくっていた。そしてまた、予想外の荒北に対する告白にも正直ビビっていた。だってあの小野寺さんが、あの荒北に!?顔面偏差値の差があり過ぎじゃん...?だよね、ぇ゛!?痛!!?足に今ピリッとなんか来た!?痛い!めっちゃ痛い!バチが当たった!人のことブスって言ったから!?じわじわ広がってくる左足の痛み。それプラスこの無理な態勢が余計に痛みを悪化させる。

「良かったら、その...付き合って、下さい」

うわ、荒北OKするんだろうなーそんで、早く二人で早く下校して欲しいなー!!!足めっちゃ痛くなってきたんだよなー!!足に再度力を入れ、歯を食いしばって必死に今の態勢を守り続ける。なんで人様の青春のワンシーンのためにここまでしなきゃいけないのか。私、彼氏いないんですけどお!

「...えっとォ」

いつもと違うトーンの荒北の声が聞こえる。もったいぶってんしゃねえよ!荒北には後でジョナサンサラダ奢ってもらおう。こんなにも神経すり減らして頑張ってんのが荒北の青春のためだなんて納得いかない!

「...ワリィ、お前と付き合うとかは、考えらんねえ」

はーいはい、おめでとおめでと...って、え!?え!?ワリィ?ワリィって言った?荒北が?小野寺さんを?振った?振った!?!?振るの?えっいいの!?いいのそれ!?あ゛っ!興奮して変なところに力が入った。やばいやつ。やばいやつ!めっちゃ汗出て来たんですけど!!

「......好きな子がいるの?」

あっ小野寺さん、追求は、追求はやめてあげてえ!私の足のためにも、頼むから!...いや、でもちょっと興味あるな...じゃない、やっぱない、足が、足がヤバイ。

「...誰か、聞いてもいい?」

時間が流れるのが遅い。靴下に汗がジワリと染み込むのがわかった。辛い、辛い、辛い!!!尋常じゃないくらい震えだした私の足。バランスを取るために少し伸ばした腕も、もう限界だった。
倒れる、そう思った矢先、

「ーー....」

荒北の何か言う声が聞こえた。荒北と小野寺さん、私しかいない教室は静かで、荒北の声ははっきり聞こえていた。はっきり、はっきり聞こえてしまっていた。聞きなれた声で、聞きなれた名前が、はっきりと聞こえたのである。
しかし、その後の小野寺さんの言葉はよく聞こえない。軽く、悲しい足音が去っていくのが聞こえて、彼女が教室から立ち去ったのはわかった。私の時間は、荒北の言葉で止まってしまった。

「...う、わああっ」

足の限界に、後ろに倒れた私は思い切り尻餅をつく。ビリビリと痺れた足に、すぐ立ち上がって教室から逃げる力は残っていなかった。教卓に近づいてくる足音が聞こえる。



「何やっちゃってんのォ?」

呆れた顔の荒北が、倒れた私を見下ろしてくる。間抜けな態勢で投げ出された足を、荒北がつついた。

「人の告白、盗み聞き?」

「う、ご、ごめ」

結果的にそういうことになって、本当に悪かったと思ってる。そして、荒北に突かれたところがビリビリ痛い。変になりそう。もういよいよ、私はここから逃げることができなくなった。

「...じゃ、さっさと返事、聞かせろヨ」




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