ピンク色の長い髪、大きくてかわいいヘッドフォン、黒いチャイナドレス。
「ん〜なまえちゃん、やっぱなんでも似合うなぁ」
それを着た私を見て、アップリケ部の友達が漏らした。今日は例のバイトの日である。まぁ常に不定期なので、今日は久しぶりのバイトだったりするのだ。
いつもはなんだか短いスカートやらリボンやら、可愛らしい服を着せられていたはずなのに、今日は少しパターンが違った。
「今日はなんか……セクシー系?」
「そう! 今日はルカやからなぁ」
「ルカ?」
そうか、今日はルカというキャラクターのコスプレなのか。
友達に言われるまま、一回りしてみたり腰を曲げたり座ったり立ち上がったり。一頻り終えると、ほつれた部分や気になった部分を直しにかかる。
「あ、そう言えば今日、財前くん告白されとったよなぁ」
「え、そうなん?」
腰のあたりで作業をする友達が、私の返答に少し驚いたように顔を上げた。びびる。
「知らなかったん?」
「おん」
「えーなまえちゃんにどうなったか聞こうと思っとったんに」
なんで私。そんな風に返せば、また目を丸くして彼女は言う。
「だってなまえちゃん、財前君とめっちゃ仲ええやん! てっきりどっちかが片想いか付き合うとるんかと思って」
「あっはーないない」
すると、「できたっ」という声が聞こえて、再び友達の前で回ったり立ったり座ったりを一通り繰り返す。その出来に満足したのか、着替えの了解をもらった。
「んーでも気なるなぁ」
「何が?」
「財前君の返事! だってあの大岡さんやで!」
「え、大岡小百合?」
彼女の名前を知らない生徒は四天宝寺にはいなかった。なんたって彼女は去年のミスコン優勝者、モデル事務所所属のベッピンさんである。そ、そんな子が財前に告白! 今までにも財前に告白をした可愛い女の子は数いれど、成功した子は一人もいなかった。だけど、今回こそは成功するかもしれない。
「……ま、でも財前が好きなんはミクちゃんやしなー……」
口から出た言葉は、せっせと脱いだコスプレ衣装を片づける友達には届いていなかったようだった。
「次は来週! またよろしくなぁ〜」
手を振る友達に私も同じ行為で返す。報酬のお菓子をもらって出た長い廊下は静まり返っていて、私一人が取り残されているような気がした。
「……ざいぜん」
この校舎からはテニスコートがよく見える。もちろん、そこで必死になってボールを追いかけている財前も。夕日が差し込む廊下に立ち止まった。ふと、そんなテニス部の練習を見学している女の子たちが目に入った。
「大岡、さん」
大岡さんの姿があった。茶色に染めた長い髪が、きれいだった。
「……」
いくら財前が私のコスプレ姿が好きだといっても、それは私自身が好きなわけではない。私より背の高い子、可愛い子、スタイルのいい子はざらにいるし、現に大岡さんはそうである。
胸が締め付けられる思いがした。顔が熱い。
私は、財前が、好きだったのだ。
けれど、財前が好きなのは私じゃない。勘違いをしていたのだ。心の奥で、自分が財前のことを好きだという事実すらわからなかったのに、もしかしたら、もしかしたらあいつも、なんて。
「……ただの阿呆やん、私」
言葉に出した時、今まで一方的に見ていただけの財前がこちらを向いた気がした。
なんだかとてつもなく恥ずかしくなって、走って校門まで逃げた(ほんま、阿呆)
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