『例の"ミクちゃん"の写真、現像できたで』

そう忍足さんから携帯に電話があったのは、あいつを家まで送り届けた後の午後7時のことだった。間違えてはいけないからと、住所の再確認も兼ねて。

「ミクちゃいます、あいつの名前」
『あぁ、せやったせやった。なまえちゃん、やったよな』

男の俺からでも、忍足さんの声は低くてなんだかやらしいと思う。電話越しでもそれは変わらなかった。

『でもほんまええ子捕まえたなぁ。普通の女の子は彼氏のためにコスプレなんかせぇへんわ』

そんな忍足さんに、小一時間前にみょうじに言われた言葉を思い出した。

「……あいつは、俺の彼女ちゃいますよ」
『は?』
「だから、あいつと俺は別になんもありませんよ」

忍足さんはしばらく黙って、俺が電源ボタンに親指を掛けたころ、思い出したように声を出した。

『なんやそれ! お前"手ぇ出さんで"みたいなこと言っとったやろ、俺はてっきり』
「ほんまです。それにあいつ、……他の奴と付き合うみたいなんで」
『みたいてなんやねん』
「あぁ、告白されとったんですわ。まぁ俺の次くらいにええ男やし、靡くやろうなぁ思って」

そう言うと忍足さんは、電話越しにあーっと声を荒げて、そんなことならあの時……とか何とか言っとった。そして一つため息をつくと、再び低い声で、少し残念そうに言う。

『ちゅーか、ミクちゃんも財前んこと好きそうやったけどなぁ……』
「ありえませんて。大体、弱み握ってコスプレさせるような男、普通好きになりませんわ」
『そうやなぁ……ま、でも財前は好きやんな?』
「は?」
『せやから財前は好きやろ? なまえちゃん』
「なんでそうなるんすか」
『阿呆、見とったらすぐにわかるわそんなん』

好き、なんだろうか。
今までそんな感情、特定の女子に持ったことはなかった。基本的に興味が無かったのだ。周りの女は俺を見て勝手にクールだのなんだの決めつけて、キャーキャー外から黄色い声を浴びせるだけだったから。

『まぁ、なまえちゃんは今フリーな訳やろ?』
「……そういうわけですね」

『"そういうわけですね"っておい……財前お前、はよしな他の奴に取られてまうで?』

どきんとした。他の奴に取られる? 誰が? みょうじが? そもそもあいつは誰のものだ?……俺のものだったはず。正確には違うかもしれない。けど、あいつをほしいと思った。コスプレをしてくれる便利な女なら他にたくさんいる。きっとあいつの言った通り、俺が頼めば大抵の奴は聞いてくれるだろう。けど、俺はそれで満足なのか?
駄目だ。あいつの足やら腕やら、細い腰やらだけじゃない。コスプレをしたあいつだけがそばにいればいい訳じゃない。駄目だ。

なまえがええんや、他じゃ駄目なんや。(まさに恋やった)




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