「あれ、これ着たことあるやつとちゃうん」

土曜、初めて財前家でコスプレをした日から一週間が経った。そして今また私はその憎き財前光の自宅にいるわけである。
コスプレ衣装に袖を通すと、なんだかその感覚・デザインに見覚えがあった。これはあれだ、財前の言いなりになってしまうきっかけを作った、あの"初音ミク"の衣装ではないか。

「せやで」

着替えが終わった瞬間、それを狙ったかのように部屋に入ってくる財前。得意げな顔に、私の姿を確認するように見定める視線。それに腹が立って、思わず大きな声で言ってしまう。

「アンタ着替えのぞいとったやろ!」
「あぁ? んなわけあるか」
「絶対に覗いてとった! タイミング良すぎやもん! おかしい、絶対おかしい!」
「アホちゃう? お前の裸なんて微塵も興味あらへんわ」
「はぁ!? もういっぺん言ってみーや!」


「……はいはい、自分らいい加減にしいや」


低い声。背筋を液体が伝っていく様な声に顔をあげれば、私より頭一つ高いところに見知らぬ顔があったのだ。某魔法映画の主人公の様なまんまる眼鏡。そして男性にしては少し長めの髪。目が合えば、財前がそうするよりもねっとりと全身を見られたような、気が、した。そしてなんで私と財前以外の人間が今ここにいるのか。

「それにしても自分、ほんまにみっくみくやなぁ」
「ちょ、そんなに近づかんといてくださいよ、忍足さん」

グイと顔を近づけられて、思わず一歩後ずさる。なんだか不思議な雰囲気のイケメンである。そんなイケメンに、財前が制止するように私と彼の間に入ると、残念そうに離れて行った。

「財前もよう見つけたわ、こんなええ子氷帝にも滅多におらへんで」
「俺の観察眼を舐めんとって下さいよ」

見つけたというか見られちゃったわけですがね、私からしたら。
財前は私と不思議イケメンを自分の部屋に座らせて、キッチンへ飲み物を取りに行った。手ぇ出さんとってくださいね、なんて念を押して行ったけれど、そんなのはお前一人で十分だとつくづく思った。

「自分、ほんまええ足しとるなぁ」
「え、あ、そうですかね」
「そうや。なぁ、ちょお触ってええか?」
「はぁ……は!?」

思い切り"忍足"さんから離れてしまった。そんな私に、彼はずんずんと近づいてくる。あぁ、やっぱり財前の知り合い、類は友を呼ぶ。

「ほんま真っ白や。細すぎず太すぎず、この脹脛たまらんわー」
「あはは、忍足さんお世辞は……ひい!何触っとるんですか!」

するりと指先が私の脹脛に触れた。ぬるりとしたその感覚に、まるで幽霊にでも触られているのかと思った。

「え、ちょ、ほんまこっち来んでください!」
「ええやん、財前今おらへんし。な?」
「や、"な?"じゃないですほんま。ちょっざ、ざいぜ……!」

「何しとるんスか、忍足さん」

言わば半泣き状態な私の肩を抱くように、財前は忍足さんと私の間に割って入ってきた。低い声がちょっと怖くて、だけどすごく安心した。

「手は出さない約束でしょ」
「財前はケチやんなぁ〜」

ケチとか言う問題ちゃうわ!頭の中ではそう言っている私自身も、緊張から声すら出なかった。

「ざ、いぜ」
「ま、今のは俺の責任やしな。ほれ」

財前に手渡されたのは、パックに入ったイチゴ牛乳。私がいつも購買で買っている、好物だった。

「え」
「飲めや。好きやろ」
「お、おん」

ご丁寧にストローまで付いていたそれを一口のみこむと、甘い味と香りの他に、なんだが胸を圧迫するものが現われた。ぎゅうぎゅうと締め付けるようなそれは、まるで電流でも浴びているようで。

ま、待てよ、これは、まさか、(認めたくない)





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -