アカヤを降ろしたところから、ずっと車は走り続けた。それがどのくらいの時間だったかは分からない。ただ、闇が通り過ぎて、また新しいそれらが充満していく様子は、とても幻想的であったのだ。
静かな国道、あたりは畑がちらほらと見える。東京ではないことがすぐに分かった。車は細い路地に入る。そうしてあるアパートの駐車場内に踏み入れた。駐車場と言っても、車が4〜5台止められそうなただの空き地なのだが。
「ここ」
マサが短く言った。そうしてすぐに車を降りて、私に手招きするのだ。まっ暗闇の中でも、マサだけは光って見えた。
「上じゃ」
私が車から降りたのを確認すると、マサはボタンで車のロックをかける。相変わらずの猫背を追うように階段を上った。濃いあずき色の、ぼろアパートである。
鍵も古めのデザインであった。マサは器用にそれをカギ穴に差し込み、玄関のドアを開けた。
生活感のない、それはこの部屋のことだと思った。
「先にシャワー浴びんしゃい、気持ち悪いじゃろ」
部屋に招き入れられ、きょろきょろと首を回す私に、マサがタオルを差し出した。下着はおいとくけん、そう付け足して。
お風呂場は綺麗だった。古いが、清潔感がある。シャワーの熱いお湯が体に伝う感覚は、やっぱり気持ちが良いものだった。湯気の中で、マサがこの部屋でどのように生活しているのかが容易に想像できた。好きなものをコンビニで買って、のんきに食べて、寝たい時に寝る。時々あの小さいテレビをつけて、頬杖をついていたりするのだ。そう思うと、なんだか少し笑えた。
「……ありがとう」
言われた通り置いてあった下着と、マサのであろうTシャツとハーフパンツを着た私は、のろのろとマサのもとへ歩いて行く。いつかったのであろうか、マサは炭酸飲料をペットボトルで口飲みしながら私を見た。
「色っぽいのう」
「馬鹿じゃない」
阿呆である。私は少し呆れてマサの隣に腰かけた。畳の上に体育座りして、映りの悪いテレビに視線を預ける。
「お前さんは、逃亡者じゃ」
「うん」
「俺は、共犯者、じゃ」
「うん」
マサは、私の眼を見なかった。
どうなるか分からない、まるで重大な罪を犯したように、私は罪悪感に見舞われて窓を見やる。
月だけが、私に笑いかけているような気がした。
←→