高速を走る車の中、私は助手席でただひたすら、ライトの照らすコンクリートを眺めていた。ぽつぽつと他の車とすれ違う。やはり平日の深夜だけあって車は少なかった。
私の宝石箱の中には、可愛らしいアクセサリーの代わりに生々しい札束が入っていた。深夜でもやっている質屋にその中身をすべて売り払った。大きな札束が二つ手に入ると、なんだか今までそれを愛していたのが情けなくなるくらいあっけなかった。

「良かったんか」

ふと聞こえた声に右を向く。

「なにが?」
「それ」

くいと顎で私の両手のなかの宝石箱を示す。今は札束の詰まった夢のないただの箱だ。

「別に」
「……これから、どうするつもりじゃ」

先のことなど考えていない。見えない未来は常に人間の眼の前にあるはずだから。先の見える未来を捨てて私はここにいる。この空き巣男の隣で、呑気に札束を抱えながら行き先も何もかも、男に任せているのだ。

「アンタが行くところに行く」
「お前さん、ほんと馬鹿な女じゃな」

馬鹿、なのかもしれない。否、馬鹿なのだ。行き先も分からず、こんな不思議な空き巣男とともに行動しているなんて。
窓を少し開けた。冷たい風が車内に充満して、温かい空気と混ざり合う。男は何も言わなかった。
小さいころ、高速では窓を開けてはいけないと何度も何度も親に言い聞かせられて、それが至極悪いことだと思い込んでいた。しかし今は、その風に当たる罪悪感さえも心地いい。


ずっとずっと思っていたのだ。スピードを上げた車の窓から入り込む風は、きっと普段の数倍も気持ちいいと。




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