思いがけないマサの言葉に、顔を上げる私。ただ涙は止まることを知らなくて、制御の感情とは反して流れ続ける。
「……え?」
「寂しい思いさせて、すまんかった」
「な、んで」
「お前さん、泣いとるじゃろう」
泣いていた。目は真っ赤になって、きっとひどい顔をしている。
「泣かせとうないんよ」
マサは困ったように笑って、私の頬に触れる。
「俺と一緒にいたら、もっと怖い思いさせることんなる。もっともっと寂しい思いさせることになってしまう」
「そんな、」
「すまんな、一緒に逃げてやれんくて」
一緒に逃げて、と頼んだ。初めは一緒に逃げてくれればそれで良かった。逃げた先で一人にされても、放っておかれてもいいと思っていた。
でも、いつだか一人は寂しいと思うようになって、マサに傍にいてほしいと、思うようになって。
初めて私の手を握って、私の目を見て、私を抱いてくれたマサと、一緒に居たかった。
私の目から再び涙の粒が落ちて、困ったように笑ったマサ。ゆっくりとその顔が近付いてきて、唇と唇が重なる。
「なまえ、」
暖かくて、優しいキスだった。
「好いとう」
「まさ、」
「初めて、守ってやらんとって、一緒にいてやらんとって、思ったんじゃ」
「ま、」
「絶対、迎えにいっちゃる。それまで、待っとって」
月はそう言って、私の長い夜のカーテンを開けた。
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