その日から、私がマサの声を聞くのは夢のなかだけになっていた。
なのに、毎朝冷蔵庫の中には新しいコンビニ弁当が置いてあって。
「バカ、だなぁ」
マサが帰ってくるんじゃないかと、毎朝、そんな期待をして起きる自分が。
冷蔵庫の中のコンビニ弁当を取出し、レンジに入れた。温めボタンを押した、その瞬間だった。
「え?」
玄関から、物音がしたのだ。ガチャ、と一度ドアノブを回す音。
当然ドアには鍵がかかっていて開かないはず。もしかして、もしかして。
「マサ……?」
そんな期待を抱きながら、ドアの鍵に触れた。冷たい感覚に、マサの言葉を思い出す。
”「誰かが部屋に来ても、絶対に鍵を開けちゃいかん。俺の声がしても、開けちゃいかん」”
そうだった。私は冷静になってその手をひっこめ、のぞき穴から外を見た。
知らない、男が、二人。
ガラの悪そうな男だった。息を殺して、玄関に座り込む。怖い。
私が思う、マサの仕事が、この間からずっと帰ってこない、その理由が、もしも当たっていたとしたら。
私が今ここにいるのがばれてしまえば、殺されてしまうかも、しれない。
涙が出てくる。ここへ来て、何度も何度も泣いた。誰もいない、それがこんなに悲しいことだったなんて、知らなかったのだ。
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