日の光が窓から入ってくる。
ひどく寒い朝を二度寝で乗り切った私の眼は、若干腫れていて。

「さいあく……」

冷たい水で冷やしてはみるが、そう簡単に収まるものではなかった。


「……」

自分以外の人のぬくもりを感じられないマサの部屋は、寂しくて、とても冷たい空気をしていた。
冷蔵庫には、コンビニ弁当が置いてあった。デザートのプリンもある。マサが置いて行ってくれたものだった。
しかし今は食べる気にはなれず、そのままもう一度、布団へともぐりこんだ。

今、お母さんやお父さんは何をしているのだろう。
一人留守番をさせた娘がいなくなって、焦っているだろうか?
それとも、私のことなど忘れて、普段通りに生活をしているのだろうか。
私という存在がいなくなっても、私の周りの世界は、順調に進んでいくのだろうか。

嫌だった。まるで、私がいなくても大丈夫だといわれているようで。私のことなど、忘れろといわれればすぐに忘れられると言われているようで。

(夢の中は真っ暗であった。何も見えず、何も感じることができない。私はその世界でどうしようもなくなって、ただただ流れ出る涙を拭うことさえ忘れていた。)

「なまえ、」

(ふと、髪を触れられた様な感覚に、振り向いた)

「すまんな。目が真っ赤じゃ……」

(声が聞こえるだけだった。聞き覚えのある声だった。)

「まだもうちょっとかかるけん、まっとって」

(声が小さくなる。触れられた感覚も、小さく小さくなって、消えてしまいそうだった。行かないで、消えないで、一人にしないで、言葉にならない言葉が、私の頭の中を駆け巡る。追いかけていきたい。だけれど、足がうまく動かないのだ。宙に浮いた足が、うまく地面を掴めないのだ)



「……マサっ」

頭が痛い。汗もびっしょりだった。長い間寝ていたようで、手足がしびれている。

外からは、鳥の声が聞こえる。カーテンの隙間から、朝の空が見えた。
マサがいないまま、また新しい日が来てしまった。

誰もいない、マサの部屋。
私は、泣くことしかできなかったのだ。


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