田んぼに囲まれた夜道を、マサと私は二人で歩いた。
暗く、街灯もほとんどない道に、マサは私の手を握って歩いてくれた。
片手にはコンビニの袋、もう片手には私の手。冷たいマサの手は、生きた人間のものではないようだった。
「……なまえ」
「なに」
「明日から、ちょっと出かけるけん。一人でお留守番、しとって」
この男、私が本当に逃げ出さないとでも思っているのだろうか。
声に顔を向ければ、優しく笑うマサが見える。
本当に、この男、何を考えているのか全くわからない。
「けど」
「けど?」
「誰かが部屋に来ても、絶対に鍵を開けちゃいかん。俺の声がしても、開けちゃいかん」
「うん……?」
「誰かが来たときは静かにして、絶対にお前さんが部屋にいることを気づかれちゃいかん」
マサの、私の手を強く握る。
「約束して」
マサの瞳はとてもきれいな色をして、ずっと見ていたら中に吸い込まれそうで、本当に、生きている人間なのかと疑うくらいで。
なのに、
「……うん」
そう短くうなずくと、「ええ子じゃ」と底なしに優しい声が響いたのだ。
次の日の朝、気が付くとマサは隣にいなかった。
一緒に、あの黒い鞄が消えていたのに気づいて、なんだか涙が出た。
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