先生の真似をするように頭上を見上げると、空が一面、茜色に染まっていることに気付く。
薄雲の隙間から夕日が顔を出していた。



大和「……そろそろ、下りないとな」


もう、校舎に生徒はほとんど残っていない時刻。
グラウンドで部活動をしていた生徒たちも、すっかり後片付けを終えていた。


(でも、もう少し…もう少しだけ、この空気の中にいたい…)


入り口に向かって歩き始めた先生の背中を呼び止める。


楓子「…鴻上先生」
大和「ん?」
楓子「あの夕日が見えなくなるまで……ここにいっしょにいてもらえませんか?」
大和「……いいよ」


先生が優しく笑う。
屋上の柵に手をかけ、ふたり並んで夕日を眺めた。


(聞きたいことはたくさんあるけど…今はまだ、聞かないでおこう。私の気持ちも、先生の気持ちも、ちゃんと伝えられる、その時がくるまで…)



だんだんと、夕日が沈んでいく。
空が濃い青に染まりきる間際、もう一度、先生の目を見て伝える。


楓子「鴻上先生?」
大和「……ん?」


(好きって言葉は伝えられないなら…他の言葉で伝えたい……)


楓子「お誕生日、おめでとう」
大和「…うん、ありがとう」
楓子「私、先生のお誕生日をお祝いできるの、何よりも嬉しい」
大和「……」
楓子「友達の誕生日より、家族の誕生日より、自分の誕生日より。先生のお誕生日が、いちばん幸せ」


不意に、先生がギュッと眉間にしわを寄せる。


(あれっ…何か変なこと言っちゃったかな……)


大和「……児玉」
楓子「は、はい……」
大和「…睫毛付いてる」
楓子「えっ?」
大和「すげー付いてる、三ヶ所くらい」
楓子「え、ど、どのへんですか?」


アタフタと顔に手をやろうとすると、その手を引き止められた。


大和「取ってやるから、目つぶって」
楓子「あ、はい」


言われるままに目を閉じる。


(先生って目が良いんだな……こんなに薄暗いのに、顔に付いた睫毛が3本も見えるなんて)


大和「……」
楓子「……」


(……まだかな。先生の前で目を閉じるって、緊張する……ん?)



ふと、この状況を客観的に捉える。



(ちょ…ちょっと待って。これって……!)



途端に速まる鼓動に、思わず目をパチリと開けると――



すぐ目の前に迫った鴻上先生の襟元から漂う香りが、私を包んで。

柔らかい唇が、おでこに触れた。




Super Happy End

Happy Birthday , dear my teacher!





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