楓子「はあ……」


トボトボと教室へ戻ってくる。
教室には誰も残っておらず、先ほどの喧噪が嘘のようにガランとしていた。


(職員会議が終わるまで、先生のこと待ってようかな……、でも会議室の近くにいたら教頭先生に見つかっちゃうかもしれないし…)


改めてプレゼントを渡す方法を考える。
けれど、先ほど最大のチャンスを逃してしまったことで、気持ちが沈んでいた。



(…先生の目に、私はどんなふうにうつっているんだろう)


誰もいない教室で、いつも先生が立っている教壇に私も立ってみる。
その位置から自分の席を眺めてみた。


(ただの生徒の1人かな……先生と生徒の関係って、やっぱり越えられないものなのかな)


カバンからプレゼントの包みを取り出す。


楓子「……教卓の中に入れておけば、そのうち気付いてもらえたりして」


どこか諦めの気持ちのまま、教卓の中にプレゼントを入れようとしていると―



ガラッ



勇太「ジャージ忘れた〜!」
楓子「…勇太くん!」
勇太「あれっ、楓子ちゃん! まだ残ってたの?」


いきなり教室に飛び込んで来た勇太くんの勢いに驚き、手からプレゼントの包みがバサッと落ちる。
勇太くんがそれに目を留めた。


勇太「それ……」
楓子「あ……」

慌てて拾い上げ、後ろ手に隠す。

楓子「び、ビックリした。忘れもの?」


誤魔化すように話題をそらす。
勇太くんは少し黙った後、気づかうように私に聞いた。


勇太「それ……鴻上先生に?」
楓子「!」


(そっか……勇太くんには、気付かれちゃってるんだよね)


幼馴染で同じクラスの勇太くんには、以前から、鴻上先生に対する想いは気付かれていた。
いつも先生との間を取り持ってくれる勇太くんにウソはつけないと、正直に話す。


楓子「うん……先生に渡そうと思ってたんだけど、受け取れないって言ってたから…」
勇太「だから、教卓の中に入れとくの?」
楓子「そのうち、夏休み中にでも、気付いてくれればいいやって思って」


視線を落としたまま打ち明ける。
すると、勇太くんがハッキリと口にする。


勇太「それでいいの?」
楓子「…え」
勇太「それで楓子ちゃんの気持ちは伝わるの?」


(私の気持ち……)


勇太「鴻上先生に渡したいのは、プレゼントもだけど……楓子ちゃんの気持ちなんじゃないの?」
楓子「……」
勇太「俺は、それじゃ楓子ちゃんの気持ちは伝わらないと思う。……先生に、ちゃんと伝えたいんでしょ?」
楓子「……うん」


(そうだった……いちばん伝えたいのは、好きって気持ち……)


大事なことに気付かされ、なんだか涙が出そうになる。
そんな私を見て、勇太くんがいつものような明るい声を出す。


勇太「だったら、ちゃんと直接渡さなくちゃ! 一緒に先生探そうか?」
楓子「ううん…どこにいるか分かってるから、大丈夫だよ」
勇太「そっか」
楓子「いま職員会議してるはずから、終わるまで待ってみる!」
勇太「うん! その心意気だよ!」

勇太くんがニッコリと笑ってくれる。

楓子「勇太くん、ありがとう」
勇太「……どういたしまして」


そこで、「あっ」と何かを思い出す顔をした。


勇太「そういえばさっき、花壇の近くでレンに『児玉先輩知りませんか?』って聞かれたんだけど…」
楓子「……あ!」


(マズイ……園芸部の集まり、すっかり忘れてた!)


勇太「もう帰っちゃったんじゃない?って言ったら、しょんぼりしてたから、行ってあげたほうがいいかも」
楓子「そ、そうだった…! 私、行ってくる!」


慌てる私の背中を、勇太くんの声が後押しする。


勇太「楓子ちゃん、頑張れ!」
楓子「うん…!」


大切なプレゼントの入ったカバンと、勇気を胸に。
私は教室を飛び出した。



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