目覚めたら、江戸時代
「ん…う…?」
体を少し締め付けられるような感覚に、ふっと意識が浮上する。重たい瞼をゆっくりと持ち上げると、目に飛び込んできたものは見慣れない木の天井。あれ?おっかしいなー…あたしの部屋の天井って白かった筈…。
ここどこなんだろうと寝起きのぼんやりした頭で考えていると、左側からスーっと何かをスライドさせる音がした。
「おお、気がついたか!よかったよかった」
首を左に傾けると、襖とゴリラが見えた。音の正体はゴリラが開けた襖だったらしい。…ん?ゴリラ?何で室内にゴリラがいるんだろ…しかも服着てるし、喋るし…
あ、よく見たらゴリラじゃなくて人だ。同じ霊長類とはいえ、間違っちゃダメでしょ…。
それにしても、どう見てもここ日本家屋だよね?近所にはなかった筈だけどなぁ。
「いやー、無事で何よりだ。なかなか目が覚めないから心配したんだぞ」
「はぁ…」
にこにこと笑いながら大丈夫かい?と声を掛けてくれる目の前の男の人に頷く。初対面の人と話すのに寝たままは失礼だろうと思って体を起こそうとすると、背中に鋭い痛みが走った。
「…………っ」
「あっ、コラ!背中にでっかい刀傷しょってるんだから、ちゃんと寝てなさい!」
「え、刀傷…?」
銃刀法の制定されてるこのご時世にか、刀傷なんて負うなんてこと…あったね。そういえばあたし斬られたんだっけか。締め付け感は包帯だったらしい。
流石に傷が開くのは勘弁してほしいので大人しく寝転んだまま男の人に顔を向ける。
「あの、ここは一体…」
「そっか、気絶してたからなぁ。分からなくて当然だな。ここは大江戸の治安を取り締まる真選組の屯所だよ。俺は局長の近藤勲だ」
あたしが混乱してるのを汲んでくれたのか、丁寧に説明してくれた。近藤さんか。……ん?新撰組の近藤さん?
「こ、ここ近藤勇…?」
「勇?いや、俺は勲だけど…」
え?違うの?新撰組の局長って言ったら近藤勇しか思い当たらないんだけど。
というよりも、まず新撰組って…あたしタイムスリップでもしちゃったってこと?でも名前違うし…
黙ったまま考え込んでしまったあたしに、近藤さんは首を傾げている。やがて痺れを切らしたのか口を開く。
「状況が飲み込めなくて混乱してるのかも知れないが…とりあえず、君の名前を教えてくれないかい?」
「…あ、すみません。あたしは渡邊桜です」
「桜ちゃんか。いい名前だね」
にこりと笑ってよろしく、と言う近藤さんに笑顔を返した直後、また襖の開く音がした。