女中としての初仕事





屯所内の挨拶まわりをした翌日。女中としての勤務初日です。


「おっ、おはよう渡邊さん。早いなー」

「あ、原田さんおはようございます!もうすぐ朝ご飯できますから、ちょっと待ってて下さいね!」


厨房でコンロやグリルをフル使いして朝ご飯を作っていると、昨日挨拶した隊長の原田さんが顔を覗かせた。何でも美味しそうな匂いにつられたとか。早起きな隊士さん達はそろそろ起きてくる頃だと教えてもらったので手を速める。
ちなみに今日の朝食は白米と鯖の塩焼きにお味噌汁、そしてカボチャの煮物という日本食だ。


「とりあえず全部とろ火にして…っと。うーん、とりあえず原田さんの分だけよそっとこう」


味見をしてから1人分だけ用意し、食堂の方へ持って行く。原田さんは既に席に着いて待っていてくれた。


「お待たせしました!」

「おおっ!旨そうだな!」


席まで運んで机の上に置くととてもいい反応をしてくれた。いただきます、の声の後、一口目を食べるのを固唾を飲んで見守る。味覚の違いとかがあったら…そう思うと不安で仕方ない。


「うまい!こんな旨い飯食ったことねぇよ!」

「ホントですか!?良かった…」


ほっと胸をなで下ろすとははっと笑われてしまう。その後すぐに土方さんがほっそりした人と一緒に入ってきた。初めて見る人だ。


「土方さん、おはようございます!」

「おう。飯もうできてんのか」

「はい。あの…すみません、そちらの方は…?」


土方さんの隣にいる男性を見て尋ねると、その人がぺこっと頭を下げてくれたのでお辞儀を返す。


「諜報の山崎退です。よろしくね渡邊さん」

「山崎さん、ですね。よろしくお願いします」


何で名前を知っているのか疑問に思ったけど、諜報だって言ってたからきっと屯所内の情報もすぐに把握できるんだけなんだろうな。すぐ用意しますね、と告げてから2人に背を向けて台所に戻る。

そこからは忙しかった。次々と隊士さん達が起きてきて、あっという間に食堂は人でいっぱいになった。1人1人よそって運んで、をしている時間が惜しかったから、カウンターのようになっている所で受け渡しする形にしてもらった。
大変だったけど、皆さんが美味しいって言う声が聞こえてきた時の嬉しさの方が強かった。

やっと落ち着いてきた頃、沖田さんがふらりと入ってきた。


「あー、腹減った」

「おはようございます沖田さん。はい、どうぞー」

「どーも」


トレイに乗せた朝食を渡すとぽやっとした顔で席まで歩いていく。
沖田さんが相当いい性格をしてるらしいことは昨日の挨拶の時点で分かっている。口に合わなかった場合、何を言われるか分かったものじゃない…。

そしてそこからはお片付けラッシュ。念の為と思ってお皿別に重ねてもらう形にしておいて良かったー。お湯を張ったシンクにお茶碗をじゃぼじゃぼ放り込みながら隊士さん達に挨拶を返す。


「おいしかったよ、ご馳走さま!」

「得意だって言ってただけあるじゃねェか」

「お粗末様でした!お勤め頑張って下さい…ん?土方さんの器、これマヨネーズですか?今日の朝食には使ってないのに…」

「あぁ、かけた」


山崎さん曰わく、土方さんは相当のマヨラーだそうな。でも…聞く限りその量は流石に、料理の味が完全に消え去る量。
コレステロール、高脂肪、高カロリーの単語が頭によぎる。


「次から制限しますね、マヨネーズ」

「あ゙?ンなもん認める訳ねェだろーが」

「早死にしますよ土方さん」


今にもブチ切れそうな程額に筋を浮かべた土方さんに背を向けて、さっさと流し台の方へ行く。…対策練らないとなぁ。
怒り心頭の土方さんを宥めている山崎さんに手を振って、山のように積まれた食器を洗う。洗う。ひたすら洗う。


「…イ」

「〜♪〜〜♪」

「オイっつってんでさァ」


へ?誰か来た?
振り向くと、若干不機嫌そうな沖田さんが立っていた。ご飯足りなかったのか、それとも口に合わなかったのかな。水の流れる音で声が消されてたのか、聞こえてなかった…やっちゃった。


「どうしたんですか沖田さん。おかわりですか?」

「ありますかねィ?」

「ギリギリありますよー。お椀貸して下さい」


よ、良かった。マズいとか言われたらどうしようかと思った。渡されたお椀にご飯と味噌汁をよそって手渡すと、何とカウンター席に座って食べ始めた。
行動の意図が分からなくて、首を傾げたままとりあえず片付けに戻る。残り少なくなっていた食器類を洗って、布巾で拭き上げる作業に移ると、また声を掛けられた。


「なんですか?」

「アンタどこで料理覚えたんですかィ?」

「…話しませんでしたっけ?恩師に教わったんです」

「…年、いくつだ?」


逆にいくつに見られてるんだろうか。ちょっと反応が見たくて、振り返ってから18歳ですよって言ってみた。ら、少し目を見開いて驚いたような表情をしていた。


「15〜6くらいだと思ってやした」

「身長のせいなら怒りますよ。そう言う沖田さんは何歳なんですか?」

「俺?アンタと同い年。18でさァ」

「え!?」


あれ?ここの新選組って未成年いたの?まぁ言われて見れば、沖田さんって体格はしっかりしてそうだけど童顔だしなぁ…。
納得、と頷いていたら、ごちそうさんという声がした。


「いってらっしゃい!お仕事頑張ってくださいね」

「へーい」


両手をポケットに突っ込んで歩いていく背中を見送って作業に戻る。
こういう生活もいいなぁなんて思ってしまう傍ら、突然いなくなって皆に心配かけてるかもしれないと思って心が軋む。行方不明扱いになってるのかな。それとも死…?

ぞっとした。こういう事考えるの止めよう。とりあえず、帰る方法を探していかないと、ね。
最後のお皿をキュッと拭いて、隊士さんたちの雄々しい声を聞きながら決心した。




女中としての初仕事

何か忘れてる気が…なんだろう。と思い始めた頃、寝坊したと全力で駆け込んできた近藤さんを見て思い切り笑ってしまったのは、また別の話です。




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