隊士の皆さんにご挨拶
真選組の屯所にお世話になり始めて早2週間。腕利きのお医者さんが傷を縫合してくれたらしく、もうほとんど完全に塞がった。
これまで起き上がることすら渋ってた近藤さんも、お医者さんから動いても大丈夫だと言われてようやく納得してくれた。流石にお風呂は数日前から入らせてもらってたけどね…。
お風呂とトイレ以外で部屋から出してもらえなかったもんだから、屯所内で知ってる人は近藤さんと土方さんの2人だけだ。
そして今は、これから隊士兼女中として働いていくのに不便…ってことで、近藤さんに連れられて屯所内の案内と隊士さん達への挨拶回りをしてる最中です。
皆さん見た目は厳ついけど、とてもフレンドリーで内心ほっとしてるのは秘密です。
「ここが食堂。最低限は揃ってるけど、必要なものがあったら言ってくれたら用意するよ」
「分かりました」
「気のいい奴らばっかりだし、桜ちゃんならすぐ打ち解けられるさ!」
にこやかに笑う近藤さんに笑顔を返す。この2週間で近藤さんにはちゃん付けで呼ばれるようになった。土方さんもおい、とかお前とかだったけど先週あたりから…
「死ね土方コノヤロー」
ドッカァァァァン!!!という爆発音(?)にびっくりして思わず近藤さんの腕を掴む。な、何何なんなの!?
「総悟ォォォォォ!!俺を殺す気か!!!」
「チッ…避けやがったか」
「てめぇ……上等だァ、覚悟しやがれ!!!!」
「…何ですか、アレ」
目を遣った方には煙に巻かれた土方さんと、バズーカを担いだ蜂蜜色の髪の男の人。いや、男の子…かな?驚きすぎてポカンと口を開けたまま近藤さんを見遣ると、ははは…と苦笑していた。
いつものことだよ、と疲れた色を見せた近藤さんにもう何も言えなかった。苦労してるんですね。
それにしても意外だ。冷静でクールな雰囲気をもつ土方さんがここまで声を荒げるとは思わなかった。いや、まぁバズーカぶっ放されたらキレるだろうけど。
目の前で繰り広げられる死闘(と言えるくらいには激しい)に大きく溜め息を吐いたあと、近藤さんはあたしにちょっとごめんと告げてから思い切り怒鳴った。
「トシ!総悟!お前たち、いい加減にしないと屯所が崩壊するだろうがああああああ!!!」
「…チッ。見つかりやしたか」
「すんません………ん?桜か。起きてていいのか?」
「はい!お医者様から許可も下りたので、明日からお仕事させてもらいます」
「そうか」
瞳孔が開き気味なのは変わらないけど、さっきより少しだけ和らいだ表情になった土方さんに笑顔を返す。そう、土方さんはあたしのことを下の名前で呼んでくれるようになったのだ!
最初は警戒されてたけど、あたしの凄まじい(大江戸についての)世間知らずっぷりを見て逆にあの嘘を信じてくれたらしい。あたしからすれば、ただカルチャーショック受けてただけだけども。
「お2人さん。ソイツ誰ですかィ?」
「おお、そういや総悟は会ってなかったな。紹介するよ。明日から隊士兼女中として働いてくれる渡邊桜ちゃん。桜ちゃん、こっちはウチの一番隊隊長の沖田総悟だ」
「渡邊桜です。よろしくお願いします」
「こりゃ丁寧にどーも。よろしく頼まァ。…にしても土方さん、局中法度で屯所は女人禁制なんじゃなかったんですかィ?」
沖田さんか…総司じゃなくて総悟らしいけど。局中法度とかあるんだ…知らなかった。守らないと何かあるのかな?