世界の最期に見た夢は


夢主はライガと人間の混血ということになってます
 ※死ネタ注意



いつか文字を教えてもらった時に読んだ、あの悲しい物語のようにはさせない。
忌み子と呼ばれたあたしを救ってくれた彼には、生きてほしい。

例えあたしが命を落とすとしても。



嘘だと思いたい。
大好きな人と剣を交えているなんて。
リオンは理由もなくこんなことしない。
でも…どうして?なんて愚問だよね。
微かに届く匂いは、紛れもない彼女のものなんだもん。



目の前で繰り広げられる、スタンとリオンの戦い。ディムロスとシャルが高い金属音を鳴らして何度も何度もぶつかり合う。
他の皆も躊躇いながらだけどリオンに向かっていく。ヒューゴを止めて、神の目を取り返すために。

あたしだってそうだ。戦いたくないって思ってるのに、今はライガの姿だ。


『グルルル…ガウッ!』

「チッ…お前が一番厄介だな、ナマエ」


倒さなくてもせめて戦えなくすれば、と左肩を狙って飛びかかってもシャルで弾かれる。吹っ飛んだあたしをスタンが受け止めてくれた。


「大丈夫か!?」

『……フーッ(平気だよ、スタン)』


あたしはまだやれる。リオンを止めなきゃ。
言葉の代わりに目で訴えるとちゃんと伝わったみたいで、力強く頷いてくれた。剣を構え直して駆け出すスタンに合わせるようにして、また地を蹴った。

永遠のように感じる攻防戦。
暗い洞窟に鳴り響く剣戟と、飛び交う唱術。


『…っ!バウッ!(ルーティ危ない!)』


傷付いた皆のために上級の回復術を唱えていたルーティに、リオンのデモンズランスの狙いが付けられる。目を閉じて集中していたルーティが気付いたのはあたしが声を上げた後。回避なんて間に合う訳ない。このままじゃ近くにいるフィリアも巻き添えになる。

ドスッという、体に鋭いものが突き刺さる音。溢れ出る紅に声も出なかった。


「ナマエ!!!」


ルーティとフィリアの声。そっちに目を向けてみると顔を青くしてあたしを見てる2人。よかった、無事だったみたいだ。間に合ってよかった。

予想外のことだったのか動揺して一瞬動きが止まったリオンに、スタンが一撃を叩き込む。まともに受けた彼はその場に一度膝を付き、そのまま崩れ落ちるように倒れた。
体に刺さった闇の槍もすうっと溶けるみたいに消えて、動けるようになったあたしも人間の姿へ戻り、脇腹を押さえながらリオンの元へ駆け寄る。


『リオンっ!』

「おい!しっかりしろ!」

「ふん…1対1なら、負けはしなかった……」

「バカ野郎……!どうしてこんな事!」

《坊ちゃんを責めないで下さい!》


ボロボロになってても、いつもと変わらない強がりを言う彼に、スタンが辛そうな声で叫ぶ。そのスタンの言葉を遮るように、頭の中にシャルティエの声が響いた。
マリアンを守るためにこうするしかなかった、と。

…やっぱり、そうだったんだ。


「シャル、お喋りが過ぎるぞ」


リオンの口から出てきたのは否定ではなく、シャルティエを叱咤する言葉。屋敷で会った人だと聞いてスタン達もすぐに分かったらしく、ハッとした顔でリオンを見る。


『…やっぱり、マリアンがヒューゴに捕まってたんだね』

「…!お前、気付いて……」

『ヒューゴがいなくなる前、向かった方向からマリアンさんの匂いがしたから』

「…そうか」


顔を俯かせたリオンにソーディアン達から彼を責める言葉が浴びせられる。やめて、リオンを責めないで。こんなことしたのはマリアンだからなんだよ…。


「……僕は、自分のしたことに一片の後悔もない。たとえ何度生まれ変わっても、必ず同じ道を選ぶ」


傷だらけの体で無理やり立ち上がって、それでも強い目でここは通さないと剣を向けてくるリオンには、あたしはもう何も言えなかった。
リオンがマリアンをどれだけ大切に思ってるか、皆は知らなくてもあたしが一番知ってるから。
…それでも、相談くらいしてほしかった。

あたしの気持ちを代弁するように、スタンがリオンに掴みかかる勢いでまくし立てる。


「どうして何も相談してくれなかった!どうして1人でやろうとした!俺達、仲間だろ!友達だろ!どうして…どうして黙ってたんだ!」

「だから来るなと…!」

「1人で抱えて!1人で苦しんで!何でお前だけ辛い思いするんだよ!何でお前だけ傷だらけになるんだよ!」


友達は苦しい時に助け合うものだ!と怒鳴るスタンの顔も苦しそうで、もう見ていられなくなってきた。


『…リオン、一緒に行こうよ』

「…ナマエ」

「俺達で全部取り戻そう。神の目も、マリアンって人も!」

「…お前達は本当に……つくづく、呆れ果てた奴だ」


そう言ってリオンが剣を下ろしてスタンの握手に応じようとした刹那、洞窟の中で激しい揺れ。血が流れ過ぎているのか、立っていられなくてその場にへたり込む。
これは、魔物化しておいた方がいいかもしれない。


「ヒューゴめ…始めたか」


リオンの口振りから、この地震の原因はヒューゴで…リオンがいても関係ないと思ってるんだろう。来るときに使ったエレベーターは道が崩れてたどり着けない。
本格的に焦って来た時、ふと地響きが聞こえてきた。


「な、なんの音でしょう…?」

《洞窟が崩れ始めたところへ海水が流れ込んでいるんじゃろう》


このままじゃ…と焦る中、1人冷静なリオンが何かを指し示す。そこにあったのは非常用のリフト。皆は急いで乗り込んだけど…あたしは何となく嫌な予感がして、リオンの後ろに座ったままでいた。
スタンが急かすも彼は首を振った。

僕はお前達とは一緒に行けない、と。
リフトを動かすには誰かがここでレバーを操作しなくてはならない、と。


『ならあたしが残る』

「なっ……!?」


リオンの言葉が途切れた瞬間。あたしはそう呟くなりライガの姿になって、彼の襟をくわえスタンに向かって思い切り投げた。
…リオンの体重が軽くて良かった。

スタンがしっかり受け止めたのを確認してすぐ、人型に戻ってレバーを下ろす。エレベーターの扉が締まり、皆が驚いた表情であたしを見ている。

「ナマエ!?」

『血出しすぎちゃったみたい!あたしもう動けないや!』

「…まさか、さっきの僕の晶術で……?」

『ううん、ここまでずーっと戦ってきたんだもん。実はもう限界だったんだ。それにマリアンはリオンが助けなきゃ』


ガタガタと音を立ててエレベーターが動き出す。ずんずん昇っていく皆に笑顔を見せるも、皆は辛そうな表情をしてる。ルーティやフィリアなんか泣きそうな顔してる。


『スタン、リオンのことお願いね』

「そんな…!」

『リオンに拾ってもらった命だもん、本望だよ。それに…ライガは義理堅いんだよ?』


だから、恩人の為にこの命を捧げられるなら悔いはないし、誇りに思う!
そう言いながら笑顔を浮かべたのに、頬の上を雫がつーっと流れていった。

魔物と人間の混血として生まれて、小さい頃から王国の研究者に実験される日々が続いてた。それが嫌になって逃げ出したあたしを保護してくれたのは……リオンだ。あんな目に遭わないように手配してくれたり、戦いや人間のことを教えてくれたのもリオンなんだ。
リオンには感謝してもしきれない。そして、何より優しい彼が大好きなんだ。

呆然としてる彼に、言っておかなければならない事があるんだった。これを言わなきゃ…リオンは絶対言わないもん。


『リオン!最後にあたしからお願い!』

「…っなんだ!?」

『ルーティに、ちゃんとホントの事を伝えなきゃ駄目だよ!』

「どうして、それを」


2人の匂いは似てるから。なんて教えてやらないんだ。大事な事だからちゃんとリオンの口から、ね。

地響きがどんどん大きくなる。皆はもう見えなくなってしまいそうなくらい高い所まで昇ってるから、巻き込まれることはないよね。
スタンが悲痛な声であたしの名前を呼ぶ。
ううん、スタンだけじゃない。ルーティにフィリア、マリーにチェルシー、ウッドロウにコングマン。それにリオンまで。


『皆との旅、すっごく楽しかった!ありがと!』


笑顔を維持するのも難しいくらいに涙が止まらない。せめて、せめて皆が見えなくなるまでは笑ってたい。


『リオン!絶対にマリアンを助けてね!約束っ!』

「……っああ!任せろ!」


言い終わり、リオンが頷いたのが見えた直後にエレベーターが見えなくなった。レバーが付いている機械に背中を預けてずるずると座り込む。もう海水が流れ込んで来てて、腰までびしょびしょになってしまった。
脇腹からどくどくと血が溢れてきて気持ち悪い。意識も朦朧としてきてるし、視界も白んできてる。

死への恐怖は、ない。


「みんな、元気に生きてね…」


あたしは一足先に逝って待ってます。あんまり早く来ちゃだめだよ。でもちょっと寂しいかな…?
なーんてね。

もう胸元まで水が来てる。タイムオーバー、だね。


「みんな、ありがとう。大好きだよ、リオン」


呟いて、目を閉じた。




エレベーターが見えなくなる直前、大好きなあの人の綺麗な紫の瞳から雫が伝っていたような、気がした。



 





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -