ShootingStar-06



「最初は何事かと思いましたよ」

空になったゴブレットを持ったまま、あちこちウロウロしながらマダムポンフリーが言った。

「あの、本当にもう大丈夫なんですか?」

「ええ、ただの睡眠不足と体調不良みたいよ」

不機嫌にフンと鼻を鳴らす。

「そうですか・・・」

「何の原因があるかわからないけど、体調管理は自分でしっかりするように言っておくんですよ」

そう言ってマダムポンフリーはシリウスをチラリと見た。
シリウスは俯いてただ相槌をうっている。

「それでは私は大広間に戻りますね、今日は午後から多用なものですから。その子の朝食は屋敷しもべ妖精に後で持ってこさせます」

マダムポンフリーはそう言いながらもてきぱきとカーテンを運んでくる。

「あなたも授業に遅れないように」

それだけ言い残して医務室を足早に出て行った。


廊下の足音がだんだん遠ざかっていく。

シリウスは大きなため息をついた。

朝食を食べに大広間に戻ろうかとも思ったが今はとてもじゃないが喉を通らない気がする。

さっきまで日影だったのに今はシリウスのひざまで光が伸びてきていた。

その光をたどって顔を上げる。

なまえの顔色はさっきよりもずっと良くなっている様だ。

安らかに寝息を立てている姿を見ていたら、無意識に安堵がもれた。


斜めから差し込む光で頬に長い睫毛が影を作っている。

肩まで伸びた髪はあんなに走ったというのに乱れることなく綺麗にまとまっていた。

見ているだけでため息が出そうだ。

その空間だけ空気が違うような、そんな感じがした。


なまえはいつもシリウスとすれ違うとうつむいて顔をそらしていた。

目が合ってもぎこちなく視線をそらされ、髪の毛で隠れてしまう。

こんなにゆっくりなまえを見つめるのは初めてだった。


「なんだ、かわいいじゃん・・・何で隠すんだよ」

そうぼそりとつぶやいて、ベッドに仰向けに臥せった。





廊下を歩く足音がする。

それはだんだん近づいてきて、人の声も混じっていた。


ガラッっと医務室のドアが開いたので、シリウスは磁石のようにベッドから離れる。
カーテンの隙間からのぞくと、入り口に誰かが立っていて辺りを見回していた。


「ジェームズ」

「あー、シリウス。やっぱここにいたんだ」

入口にはジェームズたち4人とエミリアが立っていた。

「なまえの具合はどう?」

リーマスがゆっくりカーテンを開けた。

「さっきよりも顔色が良くなった」

「よかったぁ・・・」

エミリアが中を覗いて胸をなで下ろした。

シリウスはジェームズたちに根掘り葉掘り聞かれるんじゃないかと、ひやひやしながら視線を合わせないようにしていた。

しかし、ジェームズたちはなまえの様子を一目見ると、それだけでベッドのそばから離れた。

「あと10分で授業が始まるわ」

リリーが時計を見ながらみんなの顔を見渡した。

「シリウス朝食とってないだろ?どうする?一限目は占い学だよ」

ジェームズは面倒臭そうに欠伸交じりで言った。

「お菓子食べる?」

リーマスがポケットからがさごそといろいろ取り出したので、リリーは呆れた顔でそれを見ている。

「いや・・・いい」

「そう」

リーマスはつまらなそうにそれをローブにしまった。

「一限目はサボって、食堂でしもべ妖精に何かもらってくる」

「うん。じゃあ僕らはもう行くね」

ジェームズは背伸びをしながら歩き出した。

「あたし・・・残るわ」

エミリアがぼそりとつぶやいて座り込んだ。

「エミリア、シリウスがいるから大丈夫よ。私たちは行きましょう」

リリーがエミリアの腕を引っ張る。

「でも・・・」

「いいの!シリウスはいつも占い学をさぼってるから、いなくてもバレないのよ」

リリーはそう言ってシリウスに軽くウインクした。

エミリアはリリーを見てシリウスを見て、それからなまえの寝顔を見ると、ゆっくり立ち上がった。

ピーターは時間を気にしているようだが、申し訳なくて何もいえないという表情だ。

「じゃあね〜二限目からはちゃんと授業に出るんだよ」

ジェームズが入口でシリウスに呼びかけた。

「お前、人に言える立場かよ」

ジェームズはニィッと笑って皆と医務室を出て行った。



シリウスはジェームズたちを見送ってからまた椅子に座りなおした。
結構騒がしくしたと思ったがなまえは目を覚ます様子もなく、すやすやと眠っている。

睡眠不足とか言ってたけど、そんなに寝てなかったのか?

シリウスは心の中でなまえに問いかけた。

なまえのシリウスを見るおびえたような目が頭をよぎる。

「怒鳴ったりして悪かったよ・・・ごめん」


なまえは相変わらず静かに寝息を立てていた。



「もう怒らないから・・・避けたりしないでくれ」


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