それはすずらんの花に似て

水の月14日。バレンタインデーと呼ばれるその日はそこかしこにチョコレートの香りが充満する。もちろん魔導院も例外ではない。
しかしチョコレートを貰うあてなど無いに等しいクオンは喧騒に背を向け、淡々といつも通りの生活を送っていた。クオンにとってこの日は、何らいつもとかわりない日だった。
午後をまわり、リフレッシュルームで昼食でもとるか、と本を閉じたそのとき、クオンの前に影がさす。顔を上げるとそこには真っ直ぐな髪をハーフアップにした少女。
「おや…貴女はクラスゼロの…どうしたのです?」
少女はええ、と頷き、
「今、お暇ありますか?ここでは都合が悪いので教室に来ていただきたいのですが…」
と遠慮がちに囁いた。何かやらかした記憶も無いし、昨日あの面倒な男が誕生日がどうのと行って押し掛けてきたのを適当にあしらったのを叱られるのかとも思ったが、特に断る理由も見付からず、おとなしくデュースについていつもより騒がしいエントランスを抜けクラスゼロの教室に向かう事になった。
教室のドアを開けると珍しく全員が揃っており、机には所狭しと菓子が並べられていた。普通の人間なら気が付く所だが生憎クオンはそういう方向にはとんと常識がない。横に立っているデュースに、
「これは何の騒ぎです?」
と問い掛けるとデュースは目を見開き、
「クオンさん知らなかったんですか?今日はバレンタインデーですよ!」
と言った。
「バレンタイン…」
「そうです。もとは恋人や親しい人にお菓子や花を贈る行事なんですけどこっちの方が楽しいですし、」
さあ、と手を引かれ、教室に足を踏み入れる。何度も入った教室だが、甘い香りのせいかどこか明るく見えた。
「クオンも来たねーじゃあ始めよっか!」
と言うジャックの声を合図にそれぞれ思い思いに菓子をつまんでいく。いつも険しい顔をしたサイスや冷静沈着なトレイもどことなく表情が柔らかい。その様子をぼんやりと眺めていたクオンをデュースがつつく。
「クオンさん?お菓子無くなっちゃいますよ?」
「あ、ああ…申し訳ない…どうもこういう集まりに慣れていないもので…」
デュースはふっ、と笑みをもらした。
「どうしたのです?」
「いえ…クオンさん意外と可愛らしいのですね…ふふっ」
そんなやりとりを端で眺めるセブンが二人は恋人なのかと問うまで、あと十秒。

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クオンのぼっちが引き立ってしまいました。
そしてオールキャラにしようとして失敗した跡が見られますお目汚し失礼しました。

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