「今度の任務、編成を変えようかと思うんだ」
「ふ〜ん、でも急にどうしたの?」
「ジュデッカのときに、思い知ったんだ。得意な攻撃距離が変に偏っていると大変だって」
「確かに、蒼龍の相手をするときに僕とエイトとシンクの三人で〜なんていったらヒリュウあたりに出てこられると手も足も出なくなっちゃうね」
「遠距離ばかりでも、一気に攻めかかられるとどうしようもなくなってしまいますね」
「今度の任務は特に時間のかかるものだから、慎重に行こうかと思って」
いつも、大体の任務は私たち三人で行動します。他の方が入るということは、入れ替わりで誰かが抜けなければなりません。
「エースが遠距離で僕が近距離……デュースは補助扱いでいいのかな? 攻撃範囲で言うなら遠距離だよね」
「デュース、今度の任務の間はここに残ってくれるか? 任務を受領したのは僕だから、抜けるわけにはいかないんだ」
「え、でも……あ、補助でよければわたし」
「その辺も大丈夫じゃない? きっとメガポーション買い込んだり、装備考えれば何とかなるよ〜」
「わ、かりました……お二人とも、無事に帰ってきてくださいね」
精一杯の笑顔でそう言って。
「大丈夫だよ。距離が遠いだけで、任務自体はたいしたことないんだから」
「そうそう、心配しなくたってすぐ帰ってくるよー」
それじゃあ、行ってくる。そう残して、お二人は教室を後にしました。
それから2日がたちました。普段は1日で戻ってくるので、妙に心配してしまいます。怪我なんてしていないでしょうか。致命傷だったら、きっとマザーの元に戻ってくるでしょうし、そんな話は聞いていませんから大丈夫だとは思いますけれど……。
「このままじゃ、だめですね」
一度考え始めると、いつまでたっても止まらなくなってしまいそうです。わたしは裏庭に出てみました。
「んー……いいにおい」
裏庭には、いろんな種類の花の香りがあふれていて、とても落ち着きます。
「わぁ、かわいい花ですね」
花壇の中でふと目に留まった白い、小さな花。よく見ると、一つ一つが鈴のような形をしています。
「何の花なんでしょう?」
漂う香りを胸いっぱいに吸い込み、ほぅっと息をつきます。クリスタリウムに、図鑑なんてあったでしょうか。そう思いながら、なんとなく目を向けた先には同じ色をしたベンチ。
「……そうか、今はいないんでしたね」
いつもなら、あそこには先客がいて、すうすうと穏やかな寝息を立てているのです。でも、今その人はここにはいません。ただ、それだけのことなのに、なんだかとても──
「……考えないようにって、思ったのにまるで逆効果ですね」
ベンチに座り、ぼーっと空を見上げてみます。とっても暖かくて気持ちよい日差しに包まれていても、さっきの考えからは逃げられなくて。ぐるぐると思考の迷路で迷っている間に、私はいつしか意識を手放していました。
「……あれ?」
どうやら、すっかり眠ってしまっていたようです。傾いていた体を戻すと、肩にかかる重み。何かと思ってみてみると、そこには。
「……エースさん!?」
いつの間に帰ってきていたのでしょうか。そのまま見つめていると、少し身じろぎして、うっすらと彼は目を開きます。そして、そのままパッと飛び起きました。
「もしかして、起こしてしまいましたか?」
「いや、むしろ僕のほうこそ思い切りもたれかかってしまって……」
「いいんですよ、お互い様です」
「本当は話があったんだけど、なんだか起こしてしまうのが申し訳なくて……気づいたら、僕も寝てしまってたみたいだ」
そういって気まずそうにするエースさん。きっと、話はさっきのメンバー選出のときのことなのでしょう。本当に優しい人なんだなぁ、と思うとさっきのもやもやは全部吹き飛んでしまいました。
「……エースさん、ひとつわがままを言ってもいいですか?」
「なんだ?」
「好きだって言ってほしいです」
ああしてほしい、こうしてほしいといえなくて、ふさぎこんでしまっていたわたしに、こういうわがままはもっと表に出していいんだと、以前エースさんは言ってくれましたから。
「その……しばらく会えなかった間、寂しかったので」
「そういう時は、むしろただいまじゃ」
「それだけじゃ、足りないんです」
任務だから仕方がないだろう、と言われてしまえばそれまでですけれど。でも、きっとこれくらいは許されますよね?
「……今、ここで?」
「はい。大丈夫ですよ、誰も聞いていませんから」
顔をすっかり赤くした彼は、それでも周囲を見回してから、言いました。
「……好きだよ、デュース。大好き」
「はい、私も大好きです」
そう言って笑えば、エースさんも笑ってくれました。