百日草に想いをこめて
シュユは瞠目した。自分の知るこの100年のあいだ、クリスタルに呼ばれない限り姿をめったに見ない人物が今、目の前に表れたからだ。相手の方はそんな時間の差など無かったかの様に、シュユの前に立ち尽くす。向こうがいつまでも口を開く気配が無いので、シュユは仕方無く口を開いた。
「久しいな、セツナ」
セツナ、と呼ばれた淑女はこくりと頷き、シュユ、と言った。
「何だ」
「昔朱雀四天王…と呼ばれた者の生き残りが居ただろう」
いきなり何を言い出すこの淑女は。そう思うもそんなこと言ったら何されるかわかったもんじゃない。大人しく相槌を打つ。
「ああ…いたな」
「会えぬものだろうか」
「は」
今度こそ口に出してしまった。しかしセツナはどうしてもその生き残りと話したいらしい。シュユは諦めて記憶から四天王の最後のひとり、紺色の髪の青年を探す。
「今は確か…0組の担当指揮官となっている筈だ」
「了とした」
セツナはふっ、と踵を返し、エントランスへと歩きだした。
クリスタリウムと反対にある扉を抜け、廊下を越えて突き当たりの扉を開く。ちょうど授業中だったらしく、14の朱いマントが一斉にこちらを向く。その向こうに探していた人物を見つけ、セツナは顔には出さないがしてやったり感を含んだ視線を青年に向ける。
教壇に近より、少々強引に手をひき、朱いマントの少年少女がおいおいマジかよ、だのセツナ卿!?だの騒ぐのも構わずそのまま教室と繋がっている小さな庭に彼を連れ出した。
「……いかがなされましたか、セツナ卿」
落ち着き払った青年の声が裏庭に響く。
「汝の、事だ」
セツナが自らの好奇心から発したこの言葉はクラサメを驚愕させるには十分だったようだ。マスクで隠れて表情は判り辛いが、僅かに目を見開いた。
「私が、何か」
「汝は冷気を纏う…しかし心まで凍てつかせてはなるまいぞ。心、とは人にしか持てぬもの、」
セツナは傍の花壇に歩み寄り、数本の白い花をその手にとった。そして何を思ったかクラサメの髪にそれを挿す。
「死者を悼むも悼まぬも、また人の意思」
そう告げ、ほんの一瞬、セツナは微笑したようにも見えた。
おまけ
「……で、何なのよあれ」
「授業中に連れ出すなんてぇ、セツナ卿も意外とダイタンだよねえ〜」
「いやそれは多大な勘違いだと思うぞジャック」
「たいちょー…お花贈るのは男性からじゃないかなあー」
「あれはジニアですね、花言葉は別離した友への想い、キク科で「別離した友…ふうん、セツナ卿そこのとこわかってらっしゃるのかねえ?」
「伊達に500年生きてないだろう」
「でもあのふたり、年なんて関係なさそうに見えますよね、ふふっ」
「どういうこった?アァ?」「ナインには分からないだろうな」
「ナインは子供ですから」
「クイーン…もう少し手加減してやれ」
「見てるこっちまで幸せになりそうだよねっマキナ」
「そうだな…」
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おまけは4、11、7、5、3、6、1、2、9、8、12、13、R、Mの順でした。ムズい。書き分けムズい。ジニアは百日草の学名です。