小説 | ナノ




‖花びら

さらさらと
風になびて音を立てる黒髪に
わたくしは
とても憎らしさを覚えた


「君の名は何て言うの?」


不意に声を掛けられわたくしは
手に持っていた書物を地面に落とす


「書物を読むのが好きなんだね
わたしの妹も良く読んでいるよ」

わたくしが落とした書物を拾い
はい,
と言って差し出すその姿は
どこか悲しみを漂わせていた


「あの
あなたは…」


わたくしはその男性の
深い色をした瞳を見つめながら尋ねた


「…ただの人だよ」


「え…」



さらっと
髪がなびく


花びらが
舞う…


「薬子!!」


彼が立ち去った後
皇の側近の者が
荒々しい声を発しながらわたくしに近付く

「何かご用ですか」

「お前が声を掛けた者は安殿皇子様であるぞ
何と言う口の聞き方をするのだ」


「皇子…
あの方が?」


「今後お会いしたら気を付けるのだぞ」


冷たい風が
わたくしの頬を掠める



ーどくん



その日の夜は音もない静寂な世界で
全てを捨てるなら今しかないと思った



はらはらと
黒髪が地面に落ちる


唇に付けていた紅や
瞳の上に付けてていた淡い桜の色をした粉を拭き取る


髪を結い
男性の衣を身に付けわたくしは外に出た


真黒闇に浮かぶ月はあまりにも眩しくて
ただわたくしは
見つめることしか出来なかった



「安殿皇子…」



まとわりついた悲しみを
ぬぐさりたいと
あの方の役に立ちたいと

思い始めた
新月



花びらが
ひらりと舞う



わたくしの思いをあなたに寄せてもよいですか…?




*薬子*



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