小説 | ナノ




‖桜


ちらちら
桜が舞う…

「何て綺麗なのでしょうね,阿高」
彼女はおれに笑顔を見せる。
その笑顔は桜の様に儚げで
…抱きしめていないと今にも消えそうだ。



「阿高?どうしたの」



彼女は心配そうにおれの顔を見る。
「いや
何もないよ」
「…わたくしを置いていかないでね」



さらり



ひとひらの花びらが彼女の髪に優しく舞い落ちる


靡く風は優しくて
今日の天気にふさわしい心地よさだ

「…急にどうした」

「また
何処かへ行きそうな気がして…
「わたくし
もう一人になりたくない…」



「何処かへ行くならわたくしも連れていってね」



その表情は
あまりにも切なげで
あまりにも幼げで



あまりにも愛おしい…



さらり



「馬鹿だな鈴は…」



おれの皇女…



おれは鈴を抱き上げる

驚く彼女の表情はまるで生まれたての子馬の様に透明で黒曜石の様にきらきら輝いている



「おれがお前と子どもを置いて何処かに行くと思うかい?」
「そ…それは」
「何にしろお前は身重の身だ
男の子と女の子どちらだろうな
考えるのはお腹の子だろう?」



「…はい」



顔を真っ赤にしながら微笑む鈴は幼げでとても愛らしい



「こうしていると赤子が驚くな」
「…はい」
おれは静かに彼女を降ろす



「…阿高」
おれの指に絡るその手の温もりは何処か生温かい…

「あのね
お腹の子ね,きっと女の子だと思う」
「どうして」

ふふっと俯きながら笑うと彼女は言った



「そう
桜の木が教えてくれたの」




†阿高と鈴†




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