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‖鈴

「あなたが皇にしてくれたことを忘れない
歳をとってお墓に入るまで忘れないわ」

薄青の単衣
広口の袴
そして練り絹を身に纏い少年の姿形をした少女は
おれの前から
姿を消した


藤太の傷も癒え
故郷に向かう準備も済ませていた

だが…
どうしてもおれの頭から離れられないものがあった

弟の身を守るため
兄の身を守るため
男の身なりをし
一人
あの森にいた


…鈴


「わたくしは苑上内親王です」


その堂々とした姿で
りんとした表情で
おれを真っ直ぐに見つめるその瞳は
濁りのない輝きがあった


さらっ

木枯らしの葉がおれの手に触れ地面に落ちた


どくん…


このまま
武蔵に帰って良いのか


どくん…


このまま
空白の気持ちを故郷に持って帰って良いのか

(阿高)

分かっていた
この気持ちは…
だが
知ろうとはしなかった
あの娘がもしその事を望んでいなかったら


だが違う
そうじゃないんだ


そうだろう
…親父


おれはこの気持ちを鈴に伝えたい
例えどんな結果が待ち受けようと
そんなの気にしてはいけない…


おれは自分に嘘を付かない


「鈴」

君に
この気持ちを
嘘のない気持ちを

お前の元へ…




†阿高†




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