小説 | ナノ




‖簪

新月になるとおれは思い出す…



(鳥彦,わたくし輝の宮殿に行ってくるわ)


あの夜は
静寂で
風さえも吹かなかった

ただ金と銀とで連ねた簪の玉が
黒髪と共にさらさらと
音を奏でていた



(わたくし
輝の宮殿に行って
月代王様にお会いしたいの)



皮肉だと思った

だがあまりにも若すぎたおれは
彼女が幸になるならば
見守るのも悪くないと思った



「何で入水したんだ…
狭由良」



入水の知らせを聞いた夜もまた
新月で
風の音も
川のせせらぎ音も聞こえなかった



(鳥彦)



簪と
髪との音が
もう



暗闇に飲み込まれてしまった…



君がそうなる前に
おれの気持ちを伝えておけば良かった


あの日
君の手を離さず
ここに居ろ
と抱き締めれていれば
何かが変わっていたのだろうか



ーぽちゃん



その出逢いは
まさしく偽りのものだと想った


紡ぎたかった言葉をあの娘に言わなかったのは
何かの運命で



君と同じ顔立ちをした娘と逢うのもまた何かの運命だろうか


おれの足下で行き場を失ったひもをすぐさま拾うと

澄んだ色の瞳をした娘に向かって
おれは言葉を掛けた


「このひも
あんたの?」





†鳥彦†


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