小説 | ナノ




‖羽音

「いやあああ!!
鳥彦ぉぉぉ!!」


炎に包まれながら
小さくか細い声が薄れゆく意識の中響く

その声は
おれの知っている声で
遠い昔何処かで会った女性と良く似ている…


(鳥彦)


「ああ…
狭由良姫…か」


水の乙女
輝の娘

頭上にある空の色よりまだ透明感を持つ勾玉を光らせ闇の元へ行ったあの娘…


「狭也と良く似ているよな…」


おれは
薄れゆく意識の中
「死」という現実を
ようやく感じた


…あの頃
おれはまだ幼く
どうする術も見つからなかった

「何で入水したんだ…」
護りたかった
心想うただ1人の女性をこの手で護りたかった…


「狭也まで泣かせて
本当…」
おれは情けない男だ…


「今度こそ
…護りたかったんだけどな」
大切な者を
この手で
もっと
側にいれたら…


うっすらと
涙が静かに流れ落ちる


「熱いな…」


皮膚が
生臭く
焼ける臭いがする…


「もっと…」
生きたかった
あの少女を護るために…


ばさばさっ
ばさばさ…


何処からか
鳥の羽音が聞こえる


ふと
目を開けると
おれの目の前に
ちょこんと一匹の
黒い鳥が
そこに居た

「クロ…」

その烏は
おれの目をじっと見つめ何か心に訴えている


「お…前」


薄れゆく意識の中
只1人の女性を想い描きもう元には戻れないと
そう…
確かに思った


がらがらっ
おれの身体に
木材の柱が崩れ落ちる


ばさばさ
ばさっ…


気付くとおれは
星の輝く暗い闇の中に居た


「ま…さか」
おれは


「ク…ロ」


あの時
あの一瞬

「な…んで」



あの烏は



「馬鹿やろ…」


おれは生きている…


あの烏はおれの気持ちを知っていたのだ…
狭由良を護れなかった悔しさと
狭也の側に居れない罪悪感を…


「…れは生きるよ」
お前がくれたこの身体で


「さ…や」



愛する女性の元へ
護りたい者の元へ
…今舞い降りるよ


†鳥彦†


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