「ん」

「……え、何?」




朝練が休みだった今日、いつものようにセットされていた目覚ましを無視して少し長めに寝て、少しだけ余裕を持って登校した。風紀委員が立っていなかったからか難なく校門をくぐり、上履きに履き替えたあとに教室へ向かおうとした……ら、C組の前に丸井が立っていた。差し出されたのは白い袋。意味も分からず丸井を見ると、お馴染みのガムを膨らました丸井が器用に喋った。




「やるよ」

「え?」

「だからやるって。んじゃあ」




そう言って丸井は自分のクラスへ帰っていく。その後ろ姿をただ眺めていた。袋に入っていたのは、最近評判のシュークリームと食べかけのクッキーだった。










「おはよう」

「おはよう幸村くん………ねぇ、丸井からこれ貰ったんだけど」

「へぇ、良かったじゃないか」

「おかしくない?あの丸井が食べ物くれるなんて」

「ふふ、そうかい?」

「だっておやつ………」

「そのうち分かるよ」




私にはそう言った幸村くんの言葉の意味が分からない。結局すぐに先生が来たからその理由とやらは分からなかったけど、シュークリームは文句無しに美味しかった。










「なまえ先輩、これあげるっス!」

「え?…あり、が…とう…」






「え、何真田…え」






「その顔はもう分かっていたとでも言いたそうな顔だな」

「なんとなく、予想はついてたよ」

「なら話が早い、俺からはこれをやろう」






「ここにいらしたんですね」

「柳生くんも、何かくれるの?」

「どうやら皆さんからは貰ったようですね。気に入ってくださると嬉しいんですが」






「…プリッ」






「お」

「最後」

「しょーがねーよ、ほら」

「ありがとう」










その日私は、この広い校内でレギュラー陣全員に会うことが出来たと同時に、何かしら貰った。赤也からはどこかで見たことあるうんちくんキーホルダー、真田からは習字の書、柳くんからは苦手教科対策のノート、柳生くんはさすが紳士というような気品染みたハンカチ、仁王は日焼け対策に日焼け止め、ジャッカルからはお父さんの職場先のお食事券。どうしてこれをもらったのか、だって今日は私の誕生日でもないし特別な記念日でもなんでもない。かといってレギュラー陣の何か役に立つようなことをしたのかって言われても、首を横にふることができる。それならなんで。疑問に思ったまま教室に帰れば、放課後を知らせるように殺風景な教室に、幸村くんが1人立っていた。




「まだ部活行ってないの?」

「…それは幸村くんもじゃない。部長なのに」

「君を待っていたんだもん、仕方ない」




外では野球部やサッカー部の姿が見える。窓越しに小さく掛け声が聞こえてきた。多分、テニス部も一緒。




「なんでだと思う?」

「何が?」

「誕生日でもなんでもないのに。何かイタズラかなぁ?」

「まさか」




幸村くんは笑った。それならどうして?そう聞いたところで彼の表情は変わらない。変なの、みんなして。そしたら幸村くんは優しく私の名前を呼んだ。その顔は相変わらず優しくて、すごく安心する。




「みんな、いつもの感謝の気持ちを表してるんだよ。不器用にしか表せないけど、みんな君に感謝してる」




そうすると幸村くんは小さな鉢を取り出した。その中にはまだ蕾が2つ。きっと幸村くんの髪の色のように綺麗な花びらが咲く花を、私に差し出す。




「幸村くんは私に鉢ごと持って帰れって?」

「いらないかい?」

「そんなわけない」

「いつもありがとう」


「…………ねぇ、幸村くん」

「うん?」

「……………ぎゅーって、していい?」




また幸村くんは笑った。そして心地よくOKしてくれた。幸村くんからはお花の良い香りがする。さすがこの王者立海の頂点に立つ人なんだなって実感した。


みんなが私に感謝している以上に私はみんなに感謝している。この気持ちを早く伝えたくて、でも私は今何も持っていない。それなら。物で返せないなら形で表せばいい。急いでテニスコートに向かって、ジャージにも着替えずに1人1人抱きしめる。仁王や丸井や赤也は抱き締め返してくれて、柳くんは母親みたいに対応してくれた。勿論残りはいわずもながなんだけれど。みんながいるから私は頑張れるんだよ、みんなが大好きだよって。ありったけのありがとうと最大限の愛をこめて。





「みんな、大好き!」




20111120