コードを1本1本調整して鳴らす音が部屋中に響く。目の前に広がる楽譜と照らし合わせ、1つ1つチェックをいれていく。正直作詩作曲がこんなに難しいとは思わなかった。こんなのを毎回やってるサッチを珍しく尊敬してしまった。だけど自分が言い出した以上引き返せない、否、引き返したくない。サッチがギターを降ろしてドラムへ向かった。軽快なリズムが鳴り響く。 「エース、…まだやってるよぃ」 「エースってばあいつのことで夢中なんだよ」 「うるせぇな!」 サビに入ったところに、今回俺が1番入れたかった言葉を入れる。今までの感謝と、これからの決意と予定。俺は今まであいつに何をしてやれたのか、あいつが俺のためにたくさんのことをしてくれた。ただ傍にいてくれるだけでも、いいのに。今度は俺が返す番だ。この歌を歌うとき、それは始まる。 「エース」 遠慮がちに開けられた扉からなまえが顔を覗かせた。今朝会ってからずっと顔を合わせていないのに、ずっとなまえのことを考えて曲を作っていたからか、久しぶりという気がしない。 「まだかかる?」 「いや、帰るよ」 「いいの?」 「ああ」 使っていたギターを直し、楽譜を畳む。柔く笑うなまえの横に立つと、またこいつは嬉しそうに微笑んだ。 まだ、こいつには言っていない。いつも感謝の気持ちを貰っている分、驚かせてやりたいんだ。変にタイトルを付けるより、ありのままの気持ちを、不器用な俺から送りたいから。 「?どうしたの?」 「ん、何でもねぇよ」 隣に並ぶなまえの手を握る。それはどこのどんな気持ちより、暖かかった。 20111125 |