「お前はそんなんやから彼氏の1人もいいひんねん!俺が紹介しちゃるっちゅー話や!」




こんな失礼なことを言ってのけたのは1年生のときに仲良くなり今に至る忍足謙也そのものである。自分にだって彼女の1人もおらんくせに何言うてん。だいたい紹介してほしいなんて言うてへんけど、言うてへんけど!彼氏おらんくて悪かったな、ちゅうてもこの間告白されたし…!その結果がこれやけどな!そんな私をよそに謙也は携帯とにらめっこしながらぶつぶつ独り言を呟いていた。そしていきなり「財前でええな!」とか大声で叫んだのはびっくりした、誰やねんざいぜん。そのまま謙也はスピードスターの異名のままに早口に説明を並べていく。ざいぜんには言っておいたからなんたら、そのうちメール来ると思うわーかんたら。ペラペラ説明をしたかと思えば「ほな俺放送当番やねん!」と一瞬にしてその場を去ってしまった。しかしその3秒くらいあとに携帯が光ったのと、知らないアドレスからのメールで察した。ちゅうても早すぎやろ。陽気にスピーカーから聞こえてくる声がなんだか恨めしくてあいつが帰ってきたら1発ぶん殴らせてもらおうと思いました。



はじめまして、財前光言います。




財前くんは私と同じ四天宝寺中、そして1つ年下だった。最初から敬語だったから不思議とは感じたが、まさか年下なんて。そして2年の分際で携帯なんて生意気な…!私でさえ買ってもらったのは2年の最後だったのに…!あとは、謙也の部活の後輩だということ、ちなみにテニス部、図書委員だということ。あ、あと黒髪でピアノ5つもつけてるイケメンさん。この間教室にやってきて(正しくは謙也…じゃなくて白石くんに用事があって)突然挨拶されたときは本当ビックリした。誰やねんアンタ!つっこもうとした瞬間「財前です」言いよるから生返事しかできんくなってもうた。しかしまぁ私はこんなイケメンさんと知り合ってしまったのだが果たして良いのだろうか、イケメンさんの時間を奪ってしまってもいいのか。そんなこと思っているうちにも私と財前くんの仲は着々と進み、今では財前くんとのメールが日課になっていた。


財前くんは非常に生意気であることが発覚したのは大分前のこと。謙也が前から後輩になめられとるとか言ってたけどついに私もその仲間入りを果たしてしまった。「先輩ほんまドジやんな」、あれから度々財前くんに絡まれるようになり、つい最近になると彼は私に対するあわれみの眼差しを覚えた!…いやいや使えへん使えへん!ゲーム風に言うても全っ然使えへん特技やからなこれ、ちゅーかあるだけ無駄やっちゅーねん!




「ねぇ先輩」

「なん?」

「なして彼氏おらへんのです?」

「ぶっは!なん!いきなり失礼やなぁ財前くん!」

「やって先輩モテへんのが可哀想で」

「うっざ!!」

「で?まさかほんまモテへんのですか?先輩モテへん顔しちょるもんな」

「むきー!今のめっちゃプチンきたで!白石くんに言うたる!絶対言うたるからな!」

「へいへい。ほな俺こっちなんで。あ、あとな、」

「なん!」

「今の、嘘やで」

「………は?」

「ほな」




………どれが、嘘やねん。


財前くんは意外に茶目っ気のある子で、無駄にウジウジしてる謙也とは違ってボケも直球にくる。対する謙也はありったけのツッコミをしてくれるから2人の会話を見てるこっちとしては楽しい。そして付け加えれば財前くんは、不思議な子だ。たまにこうやって自分だけが分かるような発言を私に残していく。今のだって、どれが嘘やねん。失礼なこと言ってのけて挙げ句の果てに嘘だと言って何がなんか分からない私に背を向けて財前くんは遠くなる。謙也に聞いてみても、謙也も分からないらしく「財前らしいなぁ」とか笑っていた。ぶっちゃけ謙也に聞いたのが間違いだと思った。そうして気がつけば、財前くんと知り合って1ヶ月が経とうとしていた。






相変わらず財前くんがわけわからない。というよりかは、財前くんがよめない。今まで冗談も普通に言い合ってたし、むしろ(言いたくないが)馬鹿にされることが多かった。だからいきなり機嫌の悪そうな顔されてもどうすれば良いのか分からないし、どうしてそんな顔するのかも分からないし、そんな話するのかも不機嫌なのかも全部全部分からない。どうしろっちゅーねん。また財前くんは勝手に自分だけが分かる話を並べて私に背を向ける。その背中を私は、何故か引き留められなかった。
つまり、財前くんと。喧嘩、した。




「おー、何しとんねん」

「………謙、也あぁ」

「うおわっ!泣いとるんか自分!?」




喧嘩っていっても上述通りに財前くんが知らんうちに怒ってただけだ。


…先輩、今日知らん男と話しとった。…明らかにあっち先輩に気ぃありますやん、気付いとんの?


少し眉間にシワを寄せながらそう質問をする財前くん。さすがに私だってそう鈍くはない、だからと言って自惚れるわけでもないけど、ついついいつも通りに言ってしまったのだ。



「なん、嫉妬しとんのかいな財前くんは!かわええなぁ!」

「……ざけんな!」




ここからはすでに私の耳は驚きのあまりシャットダウンさるて、いつも見せないような顔でいる財前くんが口を動かしている姿しか見えなかった。気がつけば、背を向けている彼の姿と、今まで感じたことの無い感情に押し潰される自分だけ。

謙也はいつも私が落ち込んでいるときにやってきてくれる、スピードヒーローのヘタレスター、略してスピードヘタレや(いやいやちゃうやろ!普通略してスピードスターやろ!)。くすんくすん泣く私の横に座って黙ってそばにいてくれる。時間がたって鼻水がやっととまったところで私はゆっくり口を開いた。ゆっくりゆっくり言葉を発して、それを謙也はゆっくり一言一言頷きながら聞いてくれた。




「………ほな、なまえは今辛いんやな」

「…つらい?…うん、辛い」

「ほな、今から財前んとこ行っておいで。そんで話してこい」

「なんで、財前くんは、うちのこと、」

「嫌ってなんかないで。むしろ財前だって辛いんや、お前ら全く…素直になりぃや」

「謙也………」

「大丈夫や、やから、行ってこい」




それから無我夢中で走った。財前くんの教室、まだ彼が教室にいることを願って。背中を押してくれた謙也は綺麗に輝いていた。ありがとう、謙也。




「財前、く…」



私を見た財前くんは一瞬目を見開いて、それからまた一瞬静止した。あぁ、謙也が言ってたことはほんまやったんやろか。私も何も言えずにただ立ち尽くしていると、苦く、泣きそうな顔の彼がだんだんと私に近付いてきて、彼の腕が優しく私を抱き締めた。




「ざざざざざいぜっ!!」

「先輩ほんますみません。俺ほんとはめっちゃ嫉妬してたん、気持ち悪いくらい嫉妬してたん」

「え」

「先輩不細工やから相手見る目悪い言うたんも、先輩ほんま可愛くない言うたんも、全部嘘です」

「お前そんなこと言ってたんか」




財前くんの回す腕が強くなるのが分かる。半袖シャツの上でも分かる財前くんの細身の、それでも必要な筋肉はしっかりついている腕。痛い痛い、腕じゃなくて回りの見る目が。よく考えたらなんか恥ずかしいこの状況。そして財前くんあなたはこの雰囲気理解してますか、デレ期ですか。



「俺な、先輩のことずっと前から知っててん、どうやって仲良くなろうか考えててん。したら謙也さんがいい気ぃ利かせてくれたんや。多分本人はそんとき気付いとらんと思うけど」




もう一度言っておくけど私は鈍い方ではない。だからこのあとにくる言葉はなんとなく予想できたし、財前くんが何言いたいかも分かった。だから、顔が真っ赤になるのが分かるほど熱くなるのを感じた。もちろんそれは、回りの目じゃなくて、な。




「財前く…」

「いやや、名前で呼んで」

「……………ひかる、く…」

「ん、あんな、なまえ先輩」




あぁ、駄目だ。熱い、熱い熱い熱い。財前くんの腕じゃない、夏だからと言う気温でもない。私自身が熱い。心臓がドキドキする。もう私も回りの目さえ忘れられるくらい、自分と光くんにしか集中できない。




「俺、先輩のことむっちゃ好きや。愛しとる」



私の体に、全ての熱がこもった。



(私も、好きやねん)




光くんお誕生日おめでとう!
20110718