「キミがなまえちゃん?」




中学生になったらやりたいことがいっぱいあってん。
まずは勉強。少しだけ苦手だった算数が数学になった。国語は古文、現代文、漢文なんていうたくさんの種類があるらしい。まだ将来の夢なんて考えていないし高校も決まってないけど、今のうちにできるんならやっておきたい。あとは部活。中学生って言うたら部活やろ?四天宝寺はたくさんの部活動があって、どこもすごいから未だに決まっていないのが現状なんやけど。




「……え、」

「ちょうど良かったわー!今から教室行こうと思っとったん」

「えっ、あの…なんで…」




この人知ってる。男子テニス部の部長さんや。この間の部活動紹介で男子テニス部の説明言ってた人や。なんか笑いをとることばっかで何いってるのか何やってるのか分からなかったけど。

近くで見てもやっぱりイケメンや、うちの回りの子はみんなこの人か、それか同じテニス部にいるイケメンさん何人かに見惚れていた。そんな大層なお方が私になんの用やろか、焦る私に、目の前の部長さんはそれを察してくれたのか分かりやすいように説明してくれた。




「あんな、お願いがあってん。自分にウチのテニス部のマネージャーやってもらおうと思うとうたんやわ」

「マネ……は…っ!?」

「あかん?」

「あかんって…なんでウチが…そもそも名前…!」

「あぁ、そりゃビックリするわ。すんませんな」




何言ってんこの人……。そういえば昨日も売店で男子テニス部の人たちが変なことやってたわ。男子テニス部って変な人しかおらんのか?だけどその成績は学校のあちこちにしっかりと残してあった。どうしてこうもギャップがあるのか。そして試合ではどんなプレーをしとるんやろか………あ、あかんあかん!興味持ったらあかん!マネージャーになりたいなんて少しも思ってなんかおらん!…ホンマに変な部活や。そういえばウチのクラスにも何人かテニス部に入った人おったわ。そんで、この部活に合う人もおったな、名前は何ていったっけ…たしか…




「いやな、ウチ、マネージャー足りてへんねん。部員がするわけもいかんし募集してみんかって言うたら金ちゃんがなまえちゃんをマネージャーにしたいって聞かへんねん」

「金ちゃん…?」

「なんや、金ちゃん知らんのか?金ちゃんは自分のこと、よー喋っとるで。髪がツンツンしててな、背がちっこくて…「しーらーいーしー!」…噂をすればなんとやら、や」




嵐がくるかのように廊下を走る音が聞こえる。廊下は走っちゃ駄目なんやけど、彼には何を言っても通じることはないだろう。その走っている姿がだんだんと大きくなってくるにつれて、その姿が誰のものであるか分かった。遠山くんや、同じクラスの。遠山金太郎くん。

彼が私を薦めた?なんで?なんのために?入学してそんなに時間もたっていないし、だからこそ彼と話したこともないのに、なんでなん?




「なんや金ちゃん、廊下は走ったらあかんで」

「マネージャーほんまに募集するんか!?」

「だから今交渉に来てるんやろ」

「ほんまかー!なまえ以外は認めへんからなー!」

「…あの、遠山くん…」

「ん?なんや?」

「あ、あのな…」




あぁもうなんで本人の目の前でそんなこと言うんや。やっぱりこの人も立派な男子テニス部なんやなって思った。

なんで私なのか、一言も話したこともないのになんで私がテニス部のマネージャーになってほしいのか。他にも可愛い子や人の世話うまそうな子なんかいっぱいおるやんか。疑問をぶつけたところで彼の表情が変わることはなかった。むしろ、当たり前じゃないことを聞かれたかのように口をぽっかりあけている。なんや、ウチ変なこと言うた?




「そんなん知らんわ」

「「…は…!?」」

「金ちゃん!それは失礼に値するで!謝り!」

「なんでワイが謝るんやー、当たり前の事言うて何が悪いん」




最悪や最悪や最悪や!彼にとってはマネージャーなんか誰でもええんか!たまたま教室で目にはいったウチに押し付けよう、選ぶのがめんどいとかそんな考えやったんか。そうなら絶対やらん、ちゃんと自分のやりたい部活を見つけてそっちに専念するわ…!




「…あの、すんません、ウチ…」

「だって好きなやつが同じ部活におったら嬉しいやんけ、な!白石!」

「……………え」

「金ちゃん…何言うてん…!」

「それ以外理由なんてあらへんわー」




遠山くんなんて言うた?すき?何が?遠山くんが?ウチを?好き?




「…あ、あかん!チャイムなるわ!なまえちゃん今日はほんますまんな!もし良かったらこれ…考えててぇな!」




部長さんに渡されたんは新入生が貰う、入部するときに必要な入部届けだった。こんなんもうもろうてるのに…2枚も書いてどないするん、基本は部活動1つしか入れんし、1つしか入る予定ないわ。




「ほな、ワイらも行こかー!」




遠山くんは入部届け、とっくの昔に出したんやろな。入学式の日にまでラケットを持ってきてたんやもん。……あれ、うちも結構遠山くんのこと見てるやんか。

目の前にいる遠山くんに少しドキドキしながら、右手に持った入部届けが少しだけクシャクシャになった。このまま彼の生活を見ていくのも悪くない。




20110410
金ちゃんは素直に「好き」って気持ちが強そう。気に入ってるとかいいなぁとか、少しでも女の子に特別な感情があれば。白石とかも好きだけど、大事な子だけに好きな気持ちを天然パワーで出してほしいな。
気になるから好き、この話ではそんな意味と一緒に考えてくれると嬉しいです。

追記:※ちなみに四天宝寺、部活掛け持ち式ですがこの話だとそれは無視してください←