目の前がぐらりと回転して、胸がぎゅっと気持ち悪くうずめいてるようで。扉1枚先に聞こえてくるガヤガヤとした音が妙に遠く感じる。みんなが今日という日を楽しみにしてて、私だってそれは同じ気持ちだった。喜んでほしいから頑張りすぎて、だから。



あぁ私って馬鹿馬鹿馬鹿。




体を包んでいる布団を頭にかぶせてみるとかすかに聞こえていた、外からの雑音もさらに小さくなった。音楽家が奏でるメロディーも、酒に酔って喧嘩をしだす人の声も、それを笑う声も、全部が小さくなった。…その中で彼は笑っていると思う。今日という日を忘れられない思い出になるように楽しんで、いっぱい笑って、私のいないことなんか気がつかないように。





そんなことを思っていると、突然扉の開く音がして、外から聞こえる音が流れ込むように大きく聞こえる。そして扉が閉まると同時にその声もしなくなって、薄暗い視界をあげたら、今日の主役であるエースが立っていた。




「よォ、聞いたぜ、お前このために頑張って熱出したんだろ?」

「…エース」

「なんか悪いことしたな。すいません」




頭をあげたその顔がいつものように笑っていた。お酒が入っているのかほんのり頬が赤い。そのままドカリと私のベッド横にある椅子に座って、お酒が入っているであろうジョッキを2つ、テーブルの上に豪快に置く。




「そんなやつが楽しまなきゃなんか悪いだろ?だから#name1#のために持ってきたんだ」

「…エース、私、熱出してるって聞いたんだよね…?」

「あァ、だから水」




確かに私用のジョッキには馴染みのありすぎる透明な液体。だからって水でお祝いなんて思ってもいなかった。少し楽になった上体を起こしてみる。さっきは広く見えたこの部屋も、いまは十分狭く感じる。


なんにも気にしないようにお酒を口に運ぶエースだけど、外にいる人たちはなにも不思議に思っていないのか。エースはここにいていいのか。




「ねぇエース、戻んなくて大丈夫?主役でしょ?」

「それなら大丈夫だ。誰が主役だろうがアイツら、ただ酒が飲みたいだけでやってるだけだしな。俺のこと考えて計画したのお前ぐらいだしよ」

「えー」




口に含んだ水が喉の渇きを潤す。さっきまで外の方であった出来事をエースが楽しそうに話をする。サッチ隊長が酔ってナースにちょっかいを出していただとか(殴られたって)、イゾウさんが隊員の喧嘩を止めようとしてボコボコにしてたとか、聞けば聞くほど楽しそうで。



この日のために2週間くらい前から計画を立てていて、みんな役を分担して、エースに気付かれないようにするのに必死で夜遅く作業してたり。今日の夜まで隠すのが大変で、やっとエースに「おめでとう」と伝えたときの顔は、すごく嬉しそうに笑って言って。…朝から熱出して寝込んでた私には聞いた話だから分からないけど。




「エースは優しいね」

「…なんだよいきなり」

「別に、思ったこと言っただけだよ。こうして私のために来てくれるんだもん」

「…あー……、いや、多分さ、俺」

「ん?」

「どんなやつよりかも、お前と一緒にいるほうが楽しい」




確かに、その言葉は私に届いた。
こうして顔を少しそらして小さい声で何かをいうときは、照れているときだってことを、この船に乗って彼と仲良くしているうちに知ったこと。なんだか私まで照れてきてしまう。


そっと顔をあげれば、未だ顔を背けているエースが目に入った。真っ黒な黒髪も、癖っ毛のある髪質も、全部私の知っている彼だ。




「ねぇ、エース」

「んあ?」

「もしも、もしもね、」




私があなたと一緒のように、私もエースと一緒にいるのが一番楽だし、一番楽しい。もし私がエースと出会わなかったら、あなたがもしこの船に乗らなかったら、私がこの船に誘われていなかったら。私があなたの隣にいることで幸せだとしたら。




「エースは私と会えなかったら、どうしてたのかな」




気分の悪さも大分ひいてきた。寝ていたおかげか、はたまたこの水のおかげか。それ以上に、エースがいるから安心しているからなのかもしれない。




「………んー、…それはないな」

「え」

「多分俺は、お前と会わないって事ァ無かった」

「もしもだよ?」

「だからそれが有り得ないって言ってんだ」

「なんの確信よ」

「ははっ、良いんだよ。俺はお前と一緒にいたいんだ」




さっきとはうって変わって今度は笑いながら言うもんだから、なんだか1人恥ずかしがっている自分が馬鹿みたいに恥ずかしい。エースは新しいお酒をそそいでまた口にする。




「……ねぇエース。もしもね」

「ん?」

「私もエースと同じ気持ちっていったらどうする?」




今日は質問してばかりな私にエースはどう思っているのか。本当ならば少し言いづらいことも聞いてるかもしれないけど、そんなのどう答えるのかエースの顔見ていたらすぐに分かる。今だってさっきみたいに頬を赤くして微笑んでから、一言口に出す。




「すげェ嬉しい!」




気がつけばもうすぐで“今日”が終わろうとしている。止めることなく未だに聞こえてくる外の声をバックに、この日に終わりを告げようとしている。明日、また素敵な1日がくるように。



例えば私が貴方を好きならば



エースお誕生日おめでとう!
20110102