5、





優しい男だった。強い人だった。好きになれる要素なんていっぱいあったから、大好きだった。だけどその優しさは私だけに対するものじゃないし、強いのだって私を守るためにあるものじゃない。分かっていたけど、面と向かって言われるとやっぱり傷つくんだぞコノヤロー。





「………フラれた」

「………え、は?」




今なら確実に敵が襲ってきても防衛反応なんかきかないと思う。そのまま海に落ちて、もがきもせずに人生終われそうな気がする。それよりも私を助けてくれる人なんかいるだろうか。優しい彼でも、もう私を助けてなんかくれないと思う。




4、





隣に座った男としばらくの沈黙を交わした後、私は呟いた。何びっくりしてんだ。顔を隠しているから見えないけど、そいつは多分驚いた表情で私を見ていると思う。私の心と反比例するかのように相変わらず天気は良い航海日和だ。




「え…フラれたってお前…もう言ったのか?」

「言ってない…けど、遠まわしにフラれた、の」




まだ気持ちを伝えてないからなんとも言えないけれど、伝える気もない。故郷で大切な人が待っているなんて言われたら、喉元から出かけた言葉がまた詰まってしまう。きっとあなたが大切に思う人は、私なんかと違って女らしくて可愛い人なんだろう。そんな幸せそうな顔なんて初めて見た。




3、





「あ〜…………」

「……………」

「だけど男なんていっぱいいるからな!」

「…誰でもよくない」

「そ、そん中に気になるやつが出来るかもしんないだろ!?この船だっていい奴いっぱいいるしな!」




そう言ってエースが指差した方向には誰もいない。相当動揺してるなコイツ。慌てて、それでもゆっくりとロボットのように腕を降ろすエース。なんだかそのぎこちなさに思わず笑ってしまう。あーあ、今悩んでた自分が馬鹿みたいだ。




2、





確かに、すぐに忘れるなんて無理だし、しばらく引きずるかも。多分彼の顔を見る度に胸がぎゅっとなって泣きたくなるときもくると思う。だけどエースがいうように、いつか忘れる日もくるかもしれない。さすがに誰も彼もを簡単に好きになれるなんてないと思うけど、私の隣に別の男の人がいて、彼が大切な人を迎えに行くのを温かく見守っていたい。




「うん、それにだ。お前のこと好きなやつもいるかもしれないだろ」

「……………は、」

「そんでお前もそいつのこと好きになったらめでてェ話じゃねェか」

「……どこに、そんな物好き…」

「ん、」







1…、









「俺だけど」










…は、はは。ほんとバカ。ほんとエースってバカ。バカバカバカバカ。何が「俺だけど」よ、かっこつけてんのこのバカ。さらに付け足すように笑ってこのバカ男は言う。「まぁ他にそんなやついたら骨まで焼き尽くすけどな」と。あんたみたいにバカで単純で優しくて、こんな私を好きでいてくれるやつなんて本当おかしいやつ。そして、こんなバカ男に少しでも胸が鳴り響いた私はそれ以上におかしい女だ。




20101125