高校3年、9月。
3つ隣のクラスの男子に告白された。今まで1度たりとも話したことはないし、顔を合わせることだってたまにしかない。それよりかも彼は私のことを知っていたのか。嬉しいやら恥ずかしいやらだ。このとき私は恋に対して少し臆病になっていたためか、ノーという返事しかできなかったのだが、それでも彼は「それでもいい」と言ってくれた。少しの罪悪感と期待感を胸に私たちは付き合いだした。彼の名を、ゾロくんといった。






…それでも諦められない。
何ヶ月たっても待つ。







3週間後。
本当の本当の本当に申し訳ない。ゾロくんと別れた。早すぎるよ、私最低だ。やっぱり恋をするという感情の修復は無理だった。だんだんとゾロくんと距離を取り出した自分がいた。自分で返事してこんな結果になるなんて、傷つけるぐらいならあの時付き合わなければ良かった。ちゃんと断っとけばよかったのだ。だけどゾロくんは「無理だ」と言った。私がいつか振り向くまで待つって。そのときは忘れてるかもしれないんだよ、それでもゾロくんは無理の一点張り。忘れないように、俺の気をひくようにちゃんと連絡すると言ってくれた。それでも俺の顔さえ見たくなくなったら、嫌ならすぐに言ってくれって。どこまでいい人なんだよゾロくんは。






11月。
ゾロくんは携帯が苦手なようだ。たまにする電話で、まずはサンジさんが出てからゾロくんとお話した。なんだかんだで仲がいいと思うんだけどどうだろう。ちなみにこの時期ちょうどゾロくんの誕生日だったようだ。ささやかなお祝いにマフラーをプレゼントしたらすごく喜んでくれていた。






じゃあ、1つだけお願いがある。







12月30日。
この間のクリスマスはてっきり誘われるかと思ってたのに連絡が無かったから友達と過ごした。こんな日に外に出るもんじゃない、いろんな意味で。そして今日、ゾロくんから電話があった。最初はうまく携帯電話が使えたことに驚いていた声も一瞬で真面目な声になった。そしてこのとき私は2回目の告白をされる。だけどまだ分からない自分の答えに、ゾロくんは元日の神社参りに誘ってくれた。このときの告白は全然嫌じゃなかった。早く決められない自分の答えに腹が立つ。……1日は着物着よう。






1月1日。
予定時間より1時間遅れてやってきたゾロくんは必死に謝ってそして神社へと連れていってくれた。誕生日にプレゼントしたマフラーをつけてくれていたことが少し嬉しかったなんてね。友達の多いゾロくんは歩く度に友達に会っていた。だけど私を気遣ってかすぐに歩きだしてくれる。お願いごとは何をしたか。何をしたかなぁ、きっと「今年も楽しくなりますように」だったはず。隣の彼はどんなことを願ったのか、それは彼にしか分からないことだ。






2月。
ゾロくんは興味のないことに関して理解力がないらしい。だから第一志望の大学の入試対策のため、1月からずっと連絡がとれなかった。私はすでに地元の個人会社へと就職が決まっていたので、このときは本当暇だった。別に、ゾロくんに会えないからとかじゃなくて………ううん、会えなかったから、だから寂しかったのだと思う。多分私は、ゾロくんに会いたいのだ。だけどゾロくんの入試を控えた数日前、ちょうど寂しさがピークに達するころ、私は胸が削られるような会話を耳にする。






私、絶対ゾロくんに告白するの!







卒業式まであと2週間。
今日は私たち3年生にとって久しぶりの学校登校日となる。いつも通り登校していつも通りロングホームに出て、いつも通りに過ごす。ただ1つ違うのは、学校にゾロくんがいないこと。別にいつも会っているわけじゃないけれど、同じ場所にいないだけでこんなにも違うのだ。そんなときに彼のクラスの前を通ったときに聞こえたのがあの言葉だった。………別に私はゾロくんと付き合っているわけじゃないし、誰が告白しようがその人のしたいことだから私には関係のないことだけど。胸がこんなに痛いのはなんでだろう。






20時半。
吐く息が真っ白で、冷たい風が顔へ押し寄せる。だけどそんなのは気にしない。気にせず、待ち合わせのベンチへと行ったら、すでにもう1人の影が立っていた。隣に並んでベンチに座っても交わす会話は特にない。しばらくしたあとに、受験お疲れ様と告げると、はにかみながらお礼を言われた。会話がない静かな空間に息を1つ吐いてみた。白い息は寒さをつげるものだけど、なんとなく今はそんな感じがしない。しばらくすると、ゾロくんが呟いた。「あのよ、………いや、なんでもねェ」一体何を言おうとしたのか、その後すぐに分かれたからその続きは聞けなかった。







卒業式。
入ってみた教室がいつもと違うような気がするのは、きっと今日でこの教室に入るのが最後だったからだろう。仲のいい子と写真を撮ったり、卒業アルバムにメッセージを書いてもらったり。不思議と、明日もまた笑って会えそうな気がするのに。長い長い卒業式も終わって、みんなと最後のお別れをして、不意に出た友達の涙に私も思わず泣いてしまった。今までありがとう、楽しかったよ。思いでの詰まった教室から出ようとしたそのときに、携帯のバイブ音がポケットの中で響いた。






受け取ってくれるか?







13時42分。
指定された場所に来ると、前から乱れた服を着こなすゾロくんがやってきた。少し疲れた顔と、よく見れば全部のボタンの外れた制服を見て、ボタンの争奪戦が行われていたのだと分かる。その中で目に入った第2ボタンが私の胸を締め付ける。「悪いな」「ううん、大丈夫」私が首を振ると、ゾロくんは1つ深呼吸をして話し出した。話しベタなゾロくんはいくつか言葉を発したけど、うまく言えないからとポケットから何かを取り出した。






「これだけはお前にもらってほしかった。受け取ってくれるか?」






聞かなくても分かる、制服の第2ボタン。誰かにあげたから無いんじゃなくて、私にあげたかったからわざと外したということなのだろうか。……どうしよう、目の前が滲んで見えてくる。思い浮かぶ気持ちは悲しさとか嫌悪感なんかじゃなくて、沸々と幸せな感情が湧き出てくるのだ。この気持ちをどう伝えればいいだろうか。ゾロくんは笑って腕を広げてくれた。とりあえず私は、その腕の中で嬉しさの涙を出すとしよう。






受け取りたいです。






ゾロお誕生日おめでとう!

20101111