「シャンクスー!」
数日に及ぶ航海も終わり、拠点地であるフーシャ村にたどり着いたのをいち早く迎えてくれたのは言わずもがなのルフィだった。なまえはというと、背がたりずに視界を邪魔する手すりからぴょんぴょん飛び、初めて見る他の島と、迎え入れてくれる人に興味津々といった顔で船が着くのを待っている。
「………………」
「……………シャンクスぅ、」
「ん?」
「これなんだ?」
「……ひぇっ」
「おいルフィっ、何やってんだ…っ!」
「なんだ、のびねーのか」
「のびるか!」
なまえの頬を引っ張るルフィの手を止めると、すぐになまえは俺の後ろへと隠れる。チラリとルフィを覗くも、そのルフィの視線はどうやら俺にきてるらしい。
「柔らかそうだから伸びそうだ!」
「んなわけあるか」
この世界で、いくら柔らかそうだからといって伸びるやつなんかいるか。悪魔の実を食べたやつをのぞけば、だが。実際にそんなやつが目の前にいたら俺は腰を抜かすほど驚いて思い切り笑ってしまうだろう。
「…なまえっていうのか?」
「………うん」
「さっきはいきなりつまんで悪かった。仲直りしよう」
「………………うん」
「シシシ、じゃあ冒険だ!」
仲直りを示す握手、そのままなまえの手を引いてルフィは走り出した。船員も元気なあいつらに苦笑いしか出てこないのか、遠くに走っていくあいつらを見送る。今回の航海は少々長かった、少しばかり疲労も溜まっているのだろう。いつも後ろをベッタリと着いてくるなまえもいない、いつも煩く引っ付いてくるルフィもいない。今回は島の滞在を長引かせることにしよう。そして今から酒場で宴だ。宴なんかいつものことだが、なまえがいないとなると飲める酒の量も違ってくる。たまにはあいつから離れることも大事だろう。あいつもあいつで同じくらいの年の友達も出来たんだ。きっといろいろ2人で話したいことも遊びたいこともあるだろう。
「おさけのむの?」
「あぁ」
「なまえものむー」
「まだお前には早い」
「やだ!なまえおさけ好きだもん!」
久しぶりに2人が酒場に現れた。なまえは少しでも仲間に入りたいのか俺たちを真似ようとするし、ルフィはルフィでまたいつものアレが始まる。きっとなまえが船で起きた話や島での話を聞くうちにまたそんな思いが沸いてきたのだろう。同じ年くらいの女が海に出て男がまだ出ていないということはきっと悔しいに違いない。
「うぁー、おさけー」
「駄々こねるんじゃない」
「何やってんだなまえ?」
「…ルフィ!パパがね、おさけのませてくれないの!」
そうさ、なまえ。それでいい。そしてルフィはいつも通りにこいつを遊びに連れていくことを、俺たちは知っている。そしてそれに対して嬉しそうに着いていくことも、十分知った事実だ。俺たちには俺たちの、お前たちにはお前たちなりの楽しみ方がある。
「ぶぅー」
「そんなことよりさ、冒険に行こう!昨日の続きをするんだ!」
「………ぼーけん?」
「あぁ!」
そうだルフィ、お前はそれでいい。さすが男だ、自分たちの楽しみ方を分かっている。
「うん!」
「へへ」
「えへへへ」
「それにな、おれ、シャンクスたちといるよりなまえといた方が楽しいんだ。おれお前好きだ!」
…………………………ん?
………ル、ルフィ、ルフィくん?それなんか違うくないか?お前だって今まですごく楽しそうな顔してたじゃねぇか、俺たちについてきたそうな、前まで「ここにいるの好きだ」とか言ってたじゃねぇか…、
「うん、なまえも、ルフィすき!」
「ぬぁ…っ!?」
………、心なしか、なまえの頬がほんのり赤い気がする。心底嬉しそうなそんな顔、俺たちには見せたことなんか無い、むしろ見たことさえ無いんだ。…昔、町で酒を一緒にした老人が言っていた。「娘が嫁にいったときにはこれ以上にない喪失感を感じたさ」だと。…あぁ、これがその喪失感か、俺の父親生活も短かったなぁ。老人は言った。それでも娘が幸せなら私はすごく嬉しかったと。今まさに俺が感じてる気持ちと一緒だろう、こう、ジワジワ押し寄せてくるものとぽっかり穴の空いた…………
「おさけよりパパより、ルフィが1番すきー」
「シシっ、そっか!」
「あら」
「………っ!」
「可愛いカップルの誕生ね」
「ヒューヒュー」
「ははっ、なまえもとうとう嫁にいくのかー」
「ふふ」
「別れの言葉だぜお頭」
「……………………」
「………お頭?」
サウスブルーの島の老人よ、アンタの言いたいことはよく分かる。だがな。「娘が幸せなら自分も幸せだった」?すまないが俺はまだそこまで大人じゃないんだ。
「い、今すぐ出航だお前らァア!こんどは少し長めだから準備はちゃんとしておくこと!なまえもそんなとこいないで、は、早く来なさい!」
お父さん許しませんから!
(うるせーなぁシャンクス)(ルフィはだまってろ!)(いや!ルフィと冒険するの!)(ぐぅ…!)(ギャハハ!お頭嫌われてやがるぜ!)