暑っ苦しくてそれでいてなんだか快適な夏休みを終えると、次に待っているのは1年で1番の踏ん張りどころ、別名・面倒くさい2学期の始まりだ。みんなで川に行ったことも、スイカバーを頬張りつつ左手にガリガリ君を持っていたことも、冷房のきく部屋でお昼してた楽しい夏休みも全部全部昨日までの話。



長い長い始業式を終えて、夏休み明けてからの掃除をすれば、最後に待ち構えているのはこれまた長いホームルーム。中途半端に終わった宿題を集めたり、先生の2学期の話話を聞いたりと、いつもなら通常の2倍かかる時間も今日だけはすぐに終わってしまった。…もととなる理由がこれ、ポケットの中で振動と小さな音をたてる携帯。式中に先生の目を盗んで打ったメールの返事がようやく帰ってきたようだ。







From:ルフィ
Sub:No Title
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俺のまだ夏は終わんねえ!

    --End--







…いや、何言ってんだよこいつ。夏休みは昨日で終わったんだぞこの野郎。さらに言えば世間一般の夏も昨日で終わり、今日から秋だってのに何を言い出すんだ。あぁ、つまりまだ遊び足りないから学校には来ません、ということなのだろう。ルフィの勇気に乾杯したい。






いつもの元凶がいないおかげで早く終わった学校も私にとっては暇でしかなかったために、ルフィの居場所を聞き出してその場所へと向かった。着いたのは林を抜けた先にある川。夏休み中にはみんなが足を運ぶところだけど、さすがに始業式だったからか1つの人影以外は誰も見えなかった。




「なまえー!」




水しぶきによって濡れたような白いTシャツに、襟元から半分は濡れている半ズボン。この間みんなで川に行ったときとまるっきり同じ格好だ。




「はい、アイス」

「おぉー!ガリガリ君かー!?」

「あえてのスイカバー」




靴下を脱いで川に足をつけてみると、ひんやりとした冷たさが足元から伝わった。岩の上に座っている私とその隣で立っているルフィは絶賛アイスを頬張り中だ。




「あのな!こんなでっかい魚いたんだ!」

「へーそりゃおめでとう、すごいすごい」

「そんでな!それ見つけてなまえに見せてーから俺頑張るぞ!」

「わー…」

「あ、明日は濡れても良い服で来いよ」

「え、まさかの私も入る系?ていうか明日は学校だからねルフィくん。学校に行こうか」

「えー…」




完全に駄々をこね始めたルフィを止められるのはナミくらいだろう。だけどそのためにわざわざ呼ぶのも申し訳ないし、来るはずがない。明日は学校行くよと強く言えば、ルフィも「なまえが行くから俺も行く!」と言ってくれた。なんて可愛い子!




「明日は無理だけどねルフィ、」




明日は無理だけど、ルフィがそんな大きな魚を見せてくれるらしいなら(期待しないけど)、見てやろうじゃないか。夏の思い出がまだ続くっていうのも、いい思い出かもしれない。






「土曜日にまた来よっか」






「ええーそれじゃ魚逃げるぞー」
「違うよルフィ、あの魚はここの主様なの。だからずっとここにいるし、人に捕まえられるなんて珍しいから大丈夫だよ!」
「そーなのか!?じゃあそいつを捕まえると俺がこの川の“ヌシサマ”だ!」
「…うん!だから土曜日ね!」
「おう!」
(…嘘だけど、ね)





20100901