近所に住んでいるなまえが家に来るのは今に始まったことじゃない。一緒に宿題したり、ただ遊びに来たりと学校帰りには定番のコースだったが、最近部活が忙しくなったせいかなまえが家に来るのはこのテスト週間が久しぶりだったりする。テスト3日前から部活は全停止されテストに向けての勉強が主になった今日、テストを翌日に控える日に3日連続で俺の家に来るなまえが本当に久しぶりだった。ついでに言うと、こいつに勉強を教えてやるのも前の中間考査以来久しぶりだったりする。




「んじゃ、適当に準備しといてくれ」

「はあーい。あ、私オレンジジュース!」

「んじゃあ歴史からな」




歴史と口に出せばすぐに苦い返事が聞こえる。数学教えてよ、って。いつまでも勉強に付きあってたら俺の勉強ができないから、今日は俺を優先させてもらおう。

…とは言ったものの、3日連続でオレンジジュースを注文してるもんだから、まだ残っていたか。冷蔵庫を開いた瞬間に冷気が一気に降りかかってくる。ずっとここにいられたらどんなもんか、なんてあいつの考えそうなことは置いといて。思った通り、見事にジュースはなくなっていた。そういえば昨日風呂上りに妹が飲んだんだった。そりゃあ無くなるよな。…しょうがない。2つ分のコップに麦茶をそそいでお盆に乗せる。あとは何かあったか、棚を物色すると、この間祖母ちゃんにもらったせんべいが入っていたもんだからお盆に置く。


さて、と。




「準備終わったかーって、何やってんだ?準備やってないじゃん」

「わっ、おかえりって、あれ?オレンジジュースは?」

「なかった。ていうか準備は?」

「やってない。っていうかなぜ麦茶、そしてせんべい」

「なかった。ていうか準備」




いっこうにキリの見えなさそうな言い合いはお互い悪かったことにしておいて、俺が持ってきたものの代わりになまえの嫌いな数学を教えてやることになった。食べ物くらいでわがまま言って、うるさいやつ。






「分かった!分かったよぉ陸!!」

「はいはい」

「記念に麦茶もう1杯!」




突きつけられたコップを手にして渋々もう一度部屋を出る。もう一杯注いでから、部屋に戻ると、何も手をつけていなかったなまえのノートを見て愕然とした。いや、そんな満腹感のある顔されてもな。ちょっとは進めとけよ…。










あとはゆっくり帰って寝るよ!と言いだしたなまえに対して、少しは復讐しとけよと言って見送ってやった。あれは本当に寝る顔だな、なんて思いながら俺も部屋のベッドで寝転がる。数分だけ寝て、それから勉強しよう。うっすらと閉じていく思考を妨げるかのように、ペットのオウムが鳴きだした。


そういや、こいつの名前はあいつが付けたんだっけ。オウムだから名前はオウムって。本当、変なやつ。





「…ク、キ、…ク」

「ん?」

「ス…ク、キ」




久しぶりにオウムが喋るような気がする。
1字1字、繋げるかのように発せられた言葉がやがて全部繋がって、1つの言葉になる。





「リク、スキー」






不意にもときめいたり、する





俺が部屋にいない間、なまえは何をしていたのか、今日全く準備されていなかった勉強道具の理由、全てが繋がった気がした。あぁ、きっと俺の顔は真っ赤なんだろう。さっきまで俺を襲っていた眠気が全て吹っ飛んで、オウムがさっきから連呼する言葉の意味を理解する脳が働きだしたのだ。本当にあいつは変なやつだ。何言っているのかも、なんでわざわざオウム伝えでくるのかも、全てが変なやつ。

今日は勉強どころじゃない。かと言って寝れもしない。きっと明日の歴史は、他と比べてケタ違いの点数なんだと悟った。





20100819