…ヘルプミー!誰か助けてー!
海の中心で助けを叫ぶ…なんてね。今は冗談でも通じない。
そうだ旅に出よう。思いたったら即行動、グランドラインにある私の故郷にさよならを告げたのが数時間前。
…今考えれば私が馬鹿でした。航海術も身につけてない、食料はたった3日分、しかもここはあのグランドライン。海賊が多く行き来したり海王類なんかがウジャウジャと船を襲うんだ。…しかもこれ小舟だよどうしよう。
「さよならお母さん…」
小舟に横になって目を閉じる。あぁあたしここで人生終わっちゃうのかな。ぽかぽか温かい日差しが私を照らす。…あー、目閉じたのに眩しいや。
そう思ったのもつかの間、何かが影になって私に当たる光を妨げた。…なんだ一体。目を開けると、そこにあったものは…船?潜水艦?
「お前、ひき殺されたいのか?」
「うっ…ぎゃああ!」
神だ、神の救いだ!私の願いが通じたのね!誰かが私を助けに来てくれた、もう喜ぶしかなくて、大きく手を振ってみた。おーいおーいこっちだよー!おーいおー…
「あああ危ないじゃないですかぁ!ひき殺す気かァァア!」
「言っただろう、ひき殺されたいのかと」
んなわけあるか!海に出てひき殺されたいなんてよっぽどのことがない限り思う事なんてない。
なんとか避けれた小舟の前に、船だか潜水艦だか分からないそれは止まった。…本当にひき殺されるとこだったよ。あぁ、人間やれば出来るんだな。
「…これ船ですか?」
「あ?当たり前だろうが」
「へぇー………」
「あぁ…………じゃあな」
「ちょっ、待って!!」
やばい、これを逃したら本当に私の人生ジ・エンドなんですけど。背中を見せたその人を呼び止めれば、その人はまたすぐに振り返ってくれた。
「まだ何か話があるのか?」
「へ、へい…いやあのーつまり私このままここで人生終わっちゃんぎゃ!」
ああああ危なかったよコレ!完全に私危なかったよ!今何が!?もはや後ろには見覚えのある潰された小舟、つまり私が今さっきまで乗っていた船がなんと無残な姿に…!
「ななな何すんですかァァア!今何した!本当に人生終わっちゃうとこだったっ…!あなた鬼ですか!?」
「お前が言ったんだろ、人生終わりたいって」
「言ってないィ!」
「よく乗り込めたな」
「人間やればできるもんなんですねぇ!」
聞いちゃいないよこの人!人の話は聞きなさいって習わなかったのかなあ!…本当どうするんだよこの状況。こうして漂流してたった1つしか頼らざるを得なかった小舟でさえ粉々に壊されちゃって。本当に私の唯一の希望も無くなった。こんなの私の命を終わらせるも同然じゃない、神様は不公平だ。
………はぁ。
もうここは前向きに考えるしかない。不安でしょうがないけど、それも運命だ。私に残ったもの、無くしたもののかわりに私が得られたもの。
「それで?これからどうするんだ?」
「どうするもなにも、乗っていた船も壊れたし、せっかくこの船に乗ったことだし、」
「………」
「この船に同行させていただきます!」
言い返せるものなら言い返してみろ!言っておくけど私は村一番の口達者娘と呼ばれていたくらいだから反抗はいくらだって出来る。何を言われても私にはかなわないだろう、さぁ来い!
ドンと構えたのも束の間、しばらく考えた仕草を見せた後に目の前の男の人は(今更ですが隈ひどいですね)(黙れ)、ニヤリと笑って私を見た。…寒気が走った。何か嫌な予感がする、そんなような。
「…へェ、そりゃ楽しみだ」
「………は、い?」
「海賊にそれなりの事を言ったんだ。船に乗るからにはそれなりの覚悟は出来てんだろうな?」
「………へい?」
「来い、お前を全員に紹介する」
「…はいはいはい?」
「早くしろ」
「んっ……!ぎゃあああ!」
まさか海賊なんて思わなかったし、白クマがいるなんて思わなかったしで、とりあえずとんでもないことづくめな私に船長からの強制命令と雑用の山が降りかかってくるのはそれからすぐのこと。
お母さん、そちらは幸せですか?
私は何から何まで忙しすぎて息さえ出来ません。
旅になんか出なきゃ良かったクソ野郎!
20100805