そいつを始めてみたのは、毎日のように開かれる宴が終わりを迎えた頃のことだった。飲むだけ飲んで、そこらへんに意識を失ったり喧嘩を始めたりといつもと変わらない光景が広がる。そんなやつらの暴走を止めたり部屋まで運んでやったりと、大した酔いも回らない俺はそんな世話を一通り終わらしてから甲板の手すりに肘を乗せた。前のめりになると真っ暗な空を海が移しているのがよく分かった。腹出したまま寝てるエース(こいつが腹出してんのはいつもだったなァ)と、酔った勢いでナースに抱きついたら熱い一発をくらって未だに意識を失っているサッチを後ろに、柄にもなく海に酔い浸っている俺。そろそろ後ろにいるコイツ等を運んでやるかと着いていた肘をあげようとした瞬間、真っ暗な海が音をたてて何かが顔を出した。……おいおい、なんの冗談だよい。まさか俺も酔ってんのかい?まさかな。もう一度海を見てみると、やっぱり変わらずに海から顔を出す女。すぐにそいつが人魚であることが分かった。女は笑顔で俺に手を振るから俺もそれに返してみた。船の光があたって女の顔はよく見える、逆に逆光だから女に俺の顔は見えているのか。そんなことは置いといて、ここはグランドライン、しかも夜の海ときた。人攫いにあってヒューマンオークションに売られちまうぞ、危ないから声をかけようとしたとき、女は音を立てて海に戻っていった。

「…んあっ!…なんだマルコ?酔ってんのか?」

やっぱり俺は酔っていたのか。未だ起きないサッチの腹を一蹴りし、静まった船の中、自室へ戻っていった。
しかしそれは俺の酔いで見た光景なんかじゃなかった。その日から女はよく顔を出すようになり、もはやそれは船員にとっても当たり前のようになっていた。俺らにとっちゃ人魚なんて珍しいもんでもねぇのに、いつも船員は群がる。サッチもエースもデレデレしやがって気味悪ィったらありゃしないねェ。最初は迷子かと思ったが、そののんびりとした雰囲気からしてそうではないらしい。親父もこいつの存在には気付いているようだが特に気にかける様子はなかった。


「お前はどうしてここにいるんだい?」

女のいる生活になれた頃、背中に乗せてくれと頼まれた。別に減るもんじゃねぇしなァ、危ないけどそれでも良いと言った女を背中に乗せて空を飛ぶ。晴れ渡った空の下にモビーディック号が海に浮かぶ。

「トリさん高いです!」
「トリじゃねぇよい、マルコだ」

女はえらく感動していた。何回も何回も下を見たり、広い地平線を見渡したり。島が見えると意味もないのに手を振る。…故郷が寂しくないのかい。そこで俺はあの言葉を言った。騒いでいた女がいきなり静かになる。そして小さな笑い声が聞こえてきた。

「…魚人島がね、昔酷かったの、覚えてますか?」
「あァ、忘れもしねぇ」
「私、それで救われたんです。私だけじゃない、家族も友人も、みんな」
「…………」
「白ひげさんには感謝してるんです。私、白ひげさんの役に立ちたい……だから着いて来ちゃいました」

そっから、どう役にたつつもりだい?船に乗せてと頼めば、親父のことだから豪快に笑って許すだろう。女は続けて言った。人魚だから外の世界なんて全く知らなくて、だけど白ひげさんについてきて、マルコさんに背中に乗せてもらって始めて見た世界はとても大きかった…ってな。これからいろんな場所を見に行きたいとも言った。…あぁ、クルーに人魚がいるってのも悪くないねい。守ってやる奴がいるってのも、悪くない。

「親父に言ってみるよい、お前のこと」
「私、お前じゃないです」
「あぁ、名前は?」

そういえば女の名前を知る奴なんか誰1人いなかった。サッチが名前を聞こうとしたら海に戻ってったっつってたなァ。下を見れば、甲板に出てたエースが大きく手を振っているのが見えた。女も笑顔で船に向かって手を振る。…先が思いやられるなァ。

「私ね、なまえって言います!」



20100720

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