本当の予定なら今頃携帯が鳴っているころだ。早く会いたいってこの日特別のげろ甘な台詞を吐いて数時間後に総悟と会う…予定だった。本当なら。さらに私の理想だったなら今頃一緒にいる予定だったのに。それどころか携帯さえ鳴らない。こんな事初めてだ。
暗く考えるな、ポジティブにいけ、私らしくないぞ。とにかくこんな時には寝るのが一番なのでとりあえず寝よう。考えるのはそれからだ。重くなるまぶたをゆっくり閉じた。もう目の前は真っ暗。
ドンドンドンドンドン!…
「う…っ」
…うるさっ!
あまりのうるささに目を覚ませば、さっきの時間から2時間程がたっていた。夕方なんて終わった時間、ほんのり空が暗くなる頃。携帯を開いてみてもさっきと何も変わらなかった。何の連絡さえ入っていない…そんな悲しさに覆われたけど、今はお客さんの方が先。まだ眠りかぶった目をこすって髪の毛を整えて玄関に向かった。はいはい、こんにちわ、
「…えっ、」
目の前には、やけに息をきらしながら私を見る、総悟の姿があった。仕事からすぐに来たのか、まだ隊服を身にまとう愛しい人の姿。私を見るその目は優しさと愛しさを感じて、何しに来たの?なんて冷たい言葉ははけなかった。
「来い」
「え、そ、総悟!?」
手をつれられて乗せられたのは真選組の所有するパトカー。ついでに目隠しもされたから外の風景なんて何も見えなくて、ただパトカーの動く音と振動だけが分かった。
何回も何回も総悟に問いかけてみる。だけどそのたびに返ってくる返事は無くて、ただ私の声だけが車内に響いた。そうこうしてるうちに、あるとこでパトカーは止まった。そのあとも目隠しをされたまま外に出される。…何か、階段を上ってるような気がするんだけどただの気のせいか。
「…よし」
「ふあっ!…もう総悟何す、る…」
やっと止まったかと思えば目隠しを取らされた。今喧嘩中なのに。一発文句でも言ってやろうと思ったけど、目の前に広がった光景にただただ驚くしかなかった。総悟を向くと、いつもの優しい目で私を見つめてくれていた。
「総悟…これ、」
「本当は昨日しようと思ってたけど、上からの仕事もあるし万事屋の旦那も珍しく仕事入ってらァ」
「……うん」
「結局今日しかなくて、なまえを怒らせる羽目になっちまった。でもな、やっぱり俺は、」
アンタが好きだ。
ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。今日はちゃんと理由があって駄目だったんだ。しかもそれは私の為だったんだ。溢れた涙は床にポトリポトリと落ちた。今日は総悟の誕生日なのに、私が嬉しくなったって。それでもやっぱり嬉しいのには変わりない。
「総悟ぉ…」
「何でィ」
「お誕生日おめでとう」
「…あぁ」
「…でも私プレゼント忘れちゃった」
「あぁ、それなら大丈夫でさァ」
そっと総悟は私の左手を手にとった。指に当たる暖かい感触と冷たい感触。涙でぼやけて見えるものを目にしたときは、私の胸がこれ以上にないくらい高鳴った。
ずっと一緒にいれますように
「結婚しよう」
普通は言ってから指にはめるもんだろうが、なんてこの後に思った。だけどなまえは何回も何回も頷いて、泣いてて醜い顔がもっと醜くなっていた。そんなこいつの顔も全部全部愛しい。
神様は叶えらんねェかもしれねーが、俺がアンタを幸せにするって、ずっと一緒にいてやるってことだけは守っていく。じゃなきゃ何の為にわざわざ教会を借りてシンプルに飾りたくったのか分かんなくならァ。だから、最高の18歳の誕生日のプレゼントにはアンタと最高の言葉を、最高のプレゼントを俺にくだせェ。
沖田くんお誕生日おめでとう
20100708