初彼氏は小学生の時。
子供ながらにしてのあの顔が女子全員を虜にさせた。きっと同級生の半数以上が一度は彼に恋をしたことがあると思う。私もその半数以上の一人だった。いわゆるミーハー、そう言わざるを得ないほど素敵だったと思う。あのムードメーカーな島崎さんやギャル娘の小林さんも好きだったらしい、だから周りをみれば敵、仲の良い友達だってライバルだったというパターンは少なくない。そんな中で、顔も対して可愛いわけではないし成績も普通、どこか面白味に欠ける私が、彼の“彼女”になったのだから人生は分からない。勿論批判も多く、優しく接してくれる子は多かったが、痛い視線を感じることも多々あった(特に、小林さんグループ)。小学生ということもあったのか、2ヵ月後には何もなかったかのようにあっさりすっぱりと縁が切れて、いわゆる“別れた”のだから、世界は不思議だ。ちなみに中学生にあがってからも彼の人気は衰えなかった。




2人目の彼氏は中学生1年生。ノリでの私からの告白によって成立した恋人関係。それなりに花咲かせてる恋愛でもあったが、3ヵ月後に彼の浮気によって破局。相手の女の子が彼の同クラだったから余計腹立った。あぁイラつく。別れるときは思い切りビンタ2発かましてやったわ。結構本気だったのに、なんてね。ちなみに相手の女の子とは2週間で終わったらしい。ハッ、ざまぁみろだ。




3人目の彼氏は先輩だった。これも中学1年生。
告白されたから、軽い気持ちでOKしたら長々と1年5ヵ月と続いてしまった。それなりに進んだ関係で、私にとってはこれまでで一番好きな相手だったと思う。だけどどこの恋人にもあるだろう小さなズレと、価値観の不一致から別れを選んだ。二度目はない。だって進学した彼の連絡先を全て断ち切ってしまったのだから。

それからしばらくは先輩元彼氏引きずったが、高校にあがった際は有り余るくらいの元気だった。次の恋も頑張ろう!いや、頑張れ私とこれから先の私の相手よ。






こうやって過去3人の相手と清い交際を続けてきたわけだが、嘘は言わない、どの人も大好きだった。別れた後が、そんなの微塵も感じないと言われるが、そこで振り切ってしまったのだからしょうがない。ちゃんと恋してた。大好きだった。
だからと言って、復縁を望むことはない。別れたのなら彼には彼の、私には私のこれからの人生だったり恋が待っているのだ。だから私が勝手に彼の私生活に入ってかき乱すのなんて無理。こうやって私は振り切ってきたのだ、そうなのだ。



「…………」


「シカトすんなよ」



いや、だからと言って全く関わらないわけではない。普通に顔を見合わせることはあるし、そんなときは自然にすれ違うようにしている。話しかけられるなんてなかったからそのまんまだった。だからこの場合の対処にはものすごく困るわけで。



「てめーの連絡先知る奴いねぇからどうしようかと思ったぜ」

「……へ」



携帯片手に目の前にいるのは私の初彼氏である高杉晋助である。どうしてこんなことになっているのだ。私の携帯は開かれたまま私の手の上に放置状態。ていうかあなたの知り合いと私は知り合いじゃありません。全く違う世界にいるのです、高杉さん。ぜ、じゃないですよ高杉さん。



突然私の携帯から着信音が鳴った。光り出す画面を見ると知らないアドレス。このアドレスは知らない、だけど送り主は知っている。
恐る恐るメールを開くと、『高杉晋助』とだけ書かれた文字と下に11個の数字。あぁ、やっぱり。



「おい、なまえ」



顔をあげると高杉晋助は笑っていた。さわやか系少年の笑うような素敵な笑顔じゃなくて、色気づいた少年がニヤリと笑うような、別の意味での素敵な笑み。高杉晋助と話すのは小学校以来、つまり名前を呼ばれるのも小学生以来だった。その口から私の名前を呼ぶ音程も音色も久しぶりで、もうほとんど忘れていた。
それから高杉晋助は口を開いて話し出したが、私の右耳から入って左耳へ抜けていく。彼の言葉が入らないわけだ。聞いてんのか?と聞かれたときは焦ったが、焦って返事をすると何食わぬ顔で笑ってたのでバレタと思うが気にして無いようなので私も気にしない。そこで彼は背を向けて去っていった。いや、あの。



どきどき、した。もしかしたらバクバクの間違いかもしれない。ほんの少しだけモヤモヤもした。

私が小学生の頃、高杉晋助を好きになった理由が、笑って私の名前を呼んだ、からだった。我ながらこんな好きになり方はないだろうと当時の自分に突っ込みたくなる。気も変わって別れを告げて、彼の人生に私は二度と登場しないだろうと思っていた、勝手に。だからこそ私の今後の人生にも彼は登場しないはずだった。

復縁なんか、ないと思っていた、のに。もう一度出会って連絡先を聞かれて。このどきどきする感じは、彼に微笑まれたからか、名前を呼んでもらったからか。どちらにしろ昔と同じ感じがするのはそっとしておくことにする。




少女漫画の様な恋だった