「だめー、パパイジメちゃだめ」
「うふふ、可愛いわね、なまえちゃん。でもね、あなたのパパはとてもいけないことをしたの。罰はきちんと受けなきゃいけないわ」
「………パパ、悪いことしたの?」
「えぇ、そうよ」
「……でも、だめー!」
…残暑お見舞いを見てやってきた志村の姉御の前に立ちはだかったまだ5歳のなまえちゃん。ただいま局長は出掛けていて(姉御のところじゃないのはビックリだ)、まだ屯所には戻ってきていない。
「さぁ、ゴリラはどこかしら」
「きょ…局長は出掛けていてまだ戻ってきていないんだ!」
「ほっ、本当だぞ!」
「……じゃあテメーらがこの落とし前付けてくれんのか?あァ?」
「すんませんしたァァア!」
怖ェェエ!マジ怖ェェエ!誰だよ今口答えしたの!絶対今人1人簡単に殺しそうな顔したって!怖ェよォォオ!そして誰だあんなハガキ送ったの!局長だあんのアホォォオ!
「ささ、ここであの馬鹿の帰りをお待ちください」
「さ、なまえちゃんは俺たちとあっちで遊ぼうかー」
「パパはー?」
「パパはあとで帰るからね。遅くなるかもしれないけど」
「………………」
誰も声をかけないのに一気に自分の役目を見つけ出す隊員達。残念ながら今は副長も隊長方も巡回に回っているからどうしたらいいか分からない。まぁどうせ一緒の行動するだろうけど。
そんな中、それを見つめる視線に気が付いた。まるで見慣れた光景に呆れるような、そんな。…振り返ると案の定、姉御の実の弟とその関係者である万事屋の一行が立っていた。
「あら新ちゃん、どうしたの?」
「…………いや、姉上こそ」
「あなたがね」
「いや、これ脅しだよね。絶対ちびるやついるよねコレ」
「お前がな白髪野郎」
「なんかキャラ違ってね?」
真選組の屯所内だということを気にしてないのか、姉御と万事屋一行はお構いなしに話を続ける。それを後ろで見ている俺も回りと同様、近付けないのだけど。
なまえちゃんは最近、屯所の前で捨てられていた(と言うのはアレだが本当に捨てられていた)。彼女がすっぽり入る大きさのダンボールに入っていて、さらにそのダンボールには「真選組さんお願いします」とだけ書かれていたのだ。……何を?
こんな行為を取り締まらなきゃならないんだろうが、真っ先に局長はダンボール箱ごと拾ってこう言ったのだ。
「早く帰るぞ」
その一言が何を表してるかくらい俺らにだって分かる。今は何を取り締まるかとかではなく、この子に笑顔をさせてあげたかったのだろう。そのまま局長を父親と思うようになってしまったなまえちゃんに局長はデレデレ、むさ苦しい男所帯に花を咲かせる無邪気な性格に隊員はデレデレ、もはや彼女は我が真選組の小さなアイドルだ。
「いや、ていうかこの子誰?」
「そうですよ、本当にこの子近藤さんと姉上のグフゥッ!!」
「何か言ったかしら新ちゃん?」
そういえばあのハガキは大量に印刷されていた。きっと万事屋がいるのもその真相を確かめにきたのだろう、でなければ滅多に来ることはない。これで来るのも意外だが、まぁ仕方ない。そして相変わらず姉御は怖いなと思いました。あれ、作文?
「困ったわ、どこ探してもいないんだもの。わざわざこんなとこまで出向かせてまで公開プレイがしたいのかしら」
「何のプレイ?なんかヤバい事考えてない?」
「…パパのこと、いじめるの?」
なまえちゃんは本当に局長に懐いている、本物の父親のように。局長もなまえちゃんを本当の娘のように可愛がっていて、周りから見れば本当の親子のように仲良しだ。…顔以外は。
なまえちゃんが局長のことを本当の親だと思うからこそ、局長を守りたいんだと思う。
「まぁ…………」
「今日のところは許してやったらどうです?」
「本当の鬼じゃないんだしさァ」
「何か聞こえたかしら」
「いじめちゃだめっ!」
「いいや、それは違うよなまえちゃん」
「「「!?」」」
あぁそうだ、局長は今日は朝から出掛けてしまったのだ。
だからこそ、そこにいた誰しもが驚いた。今朝出掛けてからずっと帰ってこない近藤局長が、まさになまえちゃんの後ろにいるのだ。嬉しそうに抱きついた局長の手には大きな包みがある。一体どこ行ってたんだこの馬鹿はァァア!
「なまえちゃん、これはパパからプレゼントだよ」
「ぷれぜんと?」
「あぁ。何も買ってあげれなかったからね、たまには父親らしいことしなきゃなァ」
あぁ、そうだ。
そう、確かに今俺の目に見えているのは。
「パパ大好き!」
「……………」
「姉上?」
「…帰りましょうか」
「え?マジで?いいの?あの怒りは?」
「いいのよ、親子水入らずのところを邪魔する気は無いわ」
「……そうですね」
なまえちゃんが来てから約2週間。みんなのアイドルである彼女の父親は局長である近藤勲。顔は全く似ていない2人だけど、お互いの信頼感は本物の親子のようなその2人は俺達にとってはやっぱり“本物の親子”であるのだ。
近藤子育て奮闘記
(ちなみにあのお姉さんはパパの大事な人なんだ!)(?)(いじめるんじゃなくて愛の告白に来たんだよ。お妙さんは照れ屋だなァ!)(……今何か聞こえたかしらねェ…)(姉御ォォァオ!)