あの人が好きだと言った長いストレートヘアーをばっさりと切ってみた。知的な感じだねと言われた黒い髪の毛を栗色に染めた。緩いパーマをかけて、いつも着ないような服をたくさん買った。そんな姿で鏡を見てみると、がらりと変わった自分がいて、それがあまりに似合わなくて自分で笑ってみた。重い目が自分の服から顔、髪型へと移る。こんな私、見たことがなくて、すごく似合わなくて、一瞬にして拒絶してしまう。




「何でィ、その格好」



変わったでしょ?
問いかけてみると、別人かと思ったって。今までの自分と全く違う格好なの、そう思うのは当たり前のことかもしれない。

…変わった自分を演じれば、変われるんじゃないかって。あの人が好きだと言ったものを捨ててしまえば、諦めがつくんじゃないかって。だけど、それでも彼が愛しかった過去は変わらない。逃げるようにして離れた恋が、もう恋しくて仕方ない。いつまでも変わらないのだ、彼を好きだったことには。昔の私はもういない、姿だけが変わった自分が馬鹿らしくておかしかった。



あの人が愛してくれた日々と、あの人を愛した日々から逃げているだけの私に新しい未来はやってくるのか。昔なら、簡単に見ることのできた後ろ髪を前に持ってくることさえ困難で、逆にそれが今の私にとっては嬉しいのだ。見たくない、こんな髪の毛。


「似合わねェ」

「…分かってる」


この髪色も、髪型も、この服も、全部全部。そんなこと、私が一番知っているんだ。他の人に言われなくても、自分自信が一番自覚している。…なんで、こうしたんだろう。押し寄せてくるのは後悔ばっかりで、あぁ、私何してるんだろうって。わざわざこうしても何も変わらないのならやらない方が良かった。ただの無駄骨じゃない、本当、馬鹿。


「似合わねェ。前の方が似合ってた」

「…分かってるって」

「似合わねェ、けど。そっちのが可愛い。俺は好きだ」

「………何、言ってんの」

「長さが気に入んねェなら結べばいい、服だっていつの間にか好きにならァ。髪色だって、俺と一緒が気に入らねェか?」


私が返事を返す間もなく、彼は後ろ姿を見せて去っていった。気に入る気に入らないの問題じゃないわ、何よその台詞…馬鹿みたいったらありゃしないわ。

サイドの髪の毛を手にとって目に見える位置に持ってきた。染めた栗色の髪の毛が、さっきまでここにいた沖田の髪色と似ていて、ちょっとだけ笑ってみる。あんなに大嫌いだった髪の毛が、無性に愛しく思えた。



20100501