「なまえ」
「…げ」
あれから10年程がたった今でも、家には俺、ルフィ、なまえ、たまにジジイと言った4人で生活をしている。
昔はルフィと一緒になんでも俺に頼ってきて、エース兄ちゃ、エース兄ちゃ!ってな、可愛かったんだこれがもう。ルフィといつも一緒にいたからか活発な性格になって。いつも泥だらけになって帰ってきては俺を唸らせた。さらにもともと小食のなまえが俺らの食べっぷりを見て1度真似した結果、腹をこわして一晩中寝てたし、あれにはみんなして心配したな。いつも後ろに歩いてついてきてな。それがいつの頃か、だんだんと1人で行動するようになってな、ルフィに影響されたのか、気付けば俺をエースって呼ぶようになって。中学生に上がった頃は、お洒落に友達付き合いも広がっていった。
今日だって、玄関を開けた音に目を向ければ、まだ制服を身につけ鞄を持ったなまえがいた。
「何時だと思ってんだ!こんな遅い時間まで、中学生が…大体遅くなるなら連絡しろっていつも…」
「あーもう…別に連絡しても許してくれないじゃない。それにまだ7時だよ、こんなの部活してたら当たり前でしょ!」
「お前は部活してないだろ」
「うっ……いっ、今の中学生にはこれが当たり前の時間なの!」
俺が中学生のころは、いつも買い物行って真っ直ぐ家に帰って家のことして、たまに体に傷つけて帰ってくるルフィの治療をしてから勉強して寝て、また学校に行く、という毎日の繰り返しだった。だから、最近の中学生はこうなってるのか、まだ5年しかたっていないのに、時代の流れは早いなって。そりゃショックだったさ。そんなに青春するものなのか。俺なんか高校になっても中学と変わらない毎日だったからな。
「…こんな時間まで何してたんだ?」
ということなら、今の中学生はこんな時間まで何をしているんだろうか。聞いてみたらなまえの顔がちょっとだけ和らいだような気がした。これで口から出るような言葉が、サンジに食事してもらっただとか、ゾロと遊んできただとか、そんなもんを言うんだったらもうあいつらとは関わらせないようにしよう。そして週末の外出は禁止だ!ルフィは真っ直ぐ家に帰るのにな(俺の迎えで)。こいつは迎えはいらないって言うんだ。絶対怪しいだろ、絶対なんかしてるぞ。
「…ナミと買い物行ってたの」
「買い物?」
「うん」
ナミと言ったら、近所に住むなまえより3つ上の女じゃねぇか。なまえがこの家に来た頃から仲が良かったから、買い物に連れていってもらうのはそう珍しいことじゃない。というよりは、こいつが女らしくなったのもナミのおかげだ。いや、そのせいでなまえには悪い虫が付くようになったんじゃねぇか?いや、だけどなぁ…
「…何?」
「あ、いや…なんかさ、」
「…ん?」
「いや…そのよ、たまには買い物、俺とも行かねーかなって」
「エースと?」
いや、別に嫌だったらいいんだ。最近全く一緒に外に出たことなかったからよ。久々にな、言ってみただけだ。
付け足すように言ったあと、しばらく、きょとんとした表情で悩んだなまえが目に入った。昔はみんなで食材やらを買いに行ったのに、最近では、俺は俺、なまえはなまえで行くようになった。淋しいだとか、そういうのじゃなくてな。だからさ。
「いいよ」
「……へ?」
「なんて顔してるの。だから、いいよって。今度一緒に行こっか」
そう言うなまえの笑った顔が昔と全然変わってねーじゃんと思いつつも、どこか大人びている顔がなんだか兄ちゃん懐かしかったんだ。それ以前に俺には、そんな妹のその一言が嬉しかったのだ。
「…そうだな!いつがいいか?休みがいいよな、土曜はどうだ?」
1日中ショッピングってのもいいよな!待ち合わせとかしてよ、お昼何食べるー?って言うんだ。洒落た店回ってよ、お、よーし、兄ちゃん機嫌良いから何か買ってやるよ!何が良いか?ストラップ?ネックレス?なんでも買ってやるからよ!店の人に「彼女へですか?」って間違われたりしてな!俺ら兄妹に見えないしな、本当のことだけど。なぁ、どこに行きたいか!?
「……あー…」
「なんだ?」
「……ごめんなさい。土曜日は無理なの」
「…は、なんで…」
「…友達と遊ぶの…」
「友達って…」
薄々嫌な予感はしてたんだ。だってよ、さっきまで笑顔だったこいつの表情が怪しくなってるし、買い物に行った袋は洒落た服屋のやつだし、いつもなら買った服は見せてくんのに、今日は隠そうという感じなのだ。怪しいって思ってたんだよ。
「…コビーくん…と、ヘルメッポくん、と、リカちゃん…」
「…な…なぁァァァアア!?」
可愛い妹には悪い虫が
つかないようにと
(兄ちゃん許しません!土曜日は外出禁止だ!)(なんでよ!いいじゃない別に!遊ぶだけなんだし!)(コビーとヘルメッポをなんだと思ってんだ!)(友達よォ!)