二人きり

華代の脳死を知らされた翌日。
僕は早朝に目が覚めた。
開いたままのカーテンから僅かに太陽の光が入ってくる。
ぼんやりした頭でも、一番に浮かぶのは君だった。

「華代…。」

無意識に名前を呼んでいた。
返事がないのは当たり前だ。
君を想いながら、制服のままだった僕はシャワーを浴びた。
リビングに顔を出すと、まだ早朝の5時だった。
僕の両親も姉さんも起きていない。
愛の姿もないけど、何をしているのか分からなかった。

「…華代に逢いに行こう。」

僕は囁くように言った後、一人で自宅を出た。
病室へ着くと、其処には桃しかいなかった。
病室のドアを開けてくれた桃は、目の下にくまが出来ていた。
僕は心配になって尋ねた。

「桃、おはよう。

結局家には帰らなかったのかい?」

「ずっと此処に……。」

桃は僕の目を見ようとしなかった。
華代のベッド脇に置いてある椅子に力なく座り、視線を落とした。

「こいつ今にも起きそうだから。」

僕は桃の台詞に何も返事が出来なかった。
僕らはベッドの傍にある余っていた椅子を出し、華代を囲むようにして座った。
僕は桃に訊ねた。

「桃、愛を知らないかい?」

「不二先輩と一緒に来たと思ってましたけど。」

「違うんだ。

まだ部屋に籠っているのかもしれないね。」

愛が何を思っているのか、想像がつかなかった。
繊細な愛が親友を亡くして平気でいられる筈がない。
今にも起きそうな華代は人工呼吸器を使ってはいたけど、確かに息をしていた。

「今にも起きそうだね。」

「我が妹ながら…綺麗な顔しやがって。」

桃は華代の頬をつんつんと突いた。
暫く僕らは会話もなく、ただずっと華代を見つめていた。
すると、桃がゆっくり立ち上がった。

「俺…トイレ…。」

もしかして、ずっと行ってなかったのかな?
立ち上がったのにも関わらず、此処を離れるのを躊躇している。
如何しても華代が心配みたいだ。

「大丈夫だよ。

華代の事は見ているから。」

「お願いします…。」

桃は何度も華代に振り返りながら、病室を出ていった。
静かな病室に、扉が閉まる音が響いた。
人工呼吸器が規則正しく音を発していて、華代の呼吸の手助けをしていた。
とても大きな機械だ。
きっと維持費用は巨額だろう。
ぼんやりとそんな事を考えた。





page 1/2

[ backtop ]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -