最期のプレゼント-2

特別に許された面会時間が過ぎ、愛と僕は帰宅する事になった。
華代の両親は病院の外で見送ってくれた。
愛と僕は華代の両親に如何接していいのか分からなかった。

「今日は愛ちゃんもお兄さんもありがとうね。」

華代の父親の厳格さとは打って変わって、華代の母親は穏やかだった。
僕と愛は深々と頭を下げた。
一方、桃とは病室で別れた。
桃が華代の傍から離れたくないと言って聞かなかったからだ。
僕は病院の外から見える華代の病室をじっと見つめた。

「二人共。」

華代の母親が手提げのシンプルな鞄から封筒を3つ出した。
僕に2つ、愛には1つ、それを渡した。
僕が持っている封筒の片方は何も書かれていなかったけど、もう片方と愛の封筒には手書きで其々不二先輩へ∞愛へ
そう書いてあった。
華代の字だ。
僕がそれを受け取った時に、片方の封筒からカタカタと乾いた音がした。
この音はカセットテープだろうか。
厚みや大きさからそう判断した。
愛の封筒は厚みからしてカセットテープではないみたいだ。
そして、僕にだけ渡されたこの封筒は何だろう?
宛名がないし、中身は紙だけのようだ。

「周助君、開けてみなさい。」

不思議そうに封筒を見る僕を見て、華代の父親が言った。
下の名前を呼ばれて、緊張と驚きが同時に僕を駆け巡った。

「…はい。」

糊で止められていなかった封筒の中から、一枚の紙が出てきた。
それをゆっくりと広げて見た瞬間、目を見開いた。
それは、僕が5ヶ月前に華代に渡した婚姻届だった。
如何してこれを華代の両親が…?

「今二人に渡したのは、私が華代から預けられていたものなの。

もし何かあったらって。

私達夫婦はこんな事になるなんて思ってもいなかったけど、華代は何かを感じ取っていたのかもしれないわね。」

華代の母親が優しく言った。
愛が封筒を見つめている一方で、僕は目を疑っていた。

「これは…あの…。」

言葉にならなかった。
何故なら紙には、華代の両親の署名と印鑑が押してあったからだ。
華代の父親は初めて笑顔を見せてくれた。

「華代のスクールバッグに入っていたんだ。

これが両親として、華代に出来る最期のプレゼントになるだろうから。」

「…っ、ありがとうございます。」

僕は頭を下げた。
涙を堪えるのに必死だった。
華代は間もなく死亡届が提出されるから、この婚姻届は無効だ。
たとえそれでも、充分嬉しかった。





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