君がいない-3

華代の両親は医者と話をする為に病室を出た。
病室に残されたのは、桃、愛、僕。
そして、もう目覚めることのない華代。
華代の脳死の原因は、手術中に予期せず起こった動脈破裂。
原因は不明だという。
実際、華代が盲目になったのも原因不明だった。
華代の病気は最後まで謎に包まれたまま、終わってしまった。

脳死状態。
心臓は動いていても自分で呼吸が出来ず、人工呼吸器がなければ生きてはいけない状態。
現在、華代が装着されているのは人工呼吸器だった。
これを外してしまうと、華代の呼吸は止まってしまう。
華代は自分の力で呼吸が出来ない。
華代はもう死んでいるのも同然なのかな。

愛は椅子に座ってベッドに突っ伏し、泣き疲れて眠ってしまっていた。
桃は床に座り込んだまま、生気のない目でずっと黙っていた。
僕は華代の顔を覗き込んだ。
君の頬に触れてみると、温かい。
君は今にも目を覚ましそうだったけど、全く動かない。

「華代。」

掠れた声で、君の名を呼んだ。
最後に声を出したのが何年も前のように感じた。
華代、目を覚ましてよ。

「華代…華代…。」

僕は君の肩を小刻みに揺すった。
人工呼吸器もそれに合わせて僅かに揺れた。

「華代!」

僕は一段と大きな声で言った。
愛はその声で目が覚め、ぱっと目を開けた。

「お兄ちゃん…?」

「華代!!」

僕は華代の片手を両手で強く握った。
華代の手には絆創膏が何枚も貼ってあった。
バイオリンの練習量を物語っている。
先程までの冷静さが嘘のように、僕は言葉が止まらなかった。

「コンクールに出るんだよね?

あんなに練習していたじゃないか。」

コンクールに出場出来ると話してくれた君は輝いていた。
僕は君が奏でる音色がとても好きなんだ。

「展望台で星を見るんだよね?

僕の顔を一番に見たいって言ったよね?」

「お兄ちゃん、もう止めて!」

僕の目に涙が急に溢れ出した。
これ以上、此処にいられない。
僕は反射的に病室から出て、走り出した。
愛が引き止めようと何かを言ったのが聞こえたけど、構わずに走った。
病院の看護師や患者の目も気にせず、全力で走った。
気付けば、人が少ない病院の中庭にいた。

「っ…華代…。」

華代がいないという現実を突き付けられ、涙が止まらなくなった。
華代はもういない。
嫌だ。
そんなの、嫌だ。
まるで僕の心を表現するかのように、雨が降り始めた。
僕は跪き、拳を痛い程に強く握った。
雨は激しく僕を打ち付けた。
僕と同じように、空も泣いている。
華代がいない世界なんて、考えた事もなかった。

華代がいないなんて。
こんなの嘘だ。

僕は泣くしか出来なかった。
雨の中、悔しさと哀しさが胸をかき乱した。
君を想って静かに泣き続けた。

これが現実なら、神様はなんて残酷なんだろう。
僕から華代を奪わないで――



2009.2.7




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