君がいない-2
「うっ…。」
華代の母親らしき人の嗚咽が聞こえた。
愛は医者を見つめたまま呆然と立ち尽くしている。
僕は今まで受け入れられなかったものが一気にのしかかってきたような気がした。
そんな筈はない。
華代はまた僕に笑いかけくれるに決まっている。
「ふざけんじゃねぇ!!」
桃は泣き叫んだ。
父親は暴れる桃を押さえるのに必死だった。
「もう一回言ってみろ!!」
「もう止めなさい、武!!」
父親も頬に涙が伝っていた。
僕は気付けばそっと口を開いていた。
「桃、止めるんだ。」
桃は暴れるのを止めた。
僕が静かに放ったこの一言は、狭い病室に聞こえるには難しいくらい小さかった。
「…不二先輩…。」
桃は涙で一杯の目を僕に向けた。
そしてその場に崩れ落ちるように脱力した。
「嘘だろ、華代…。」
「華代、やだ、やだよぉ…っ。」
愛は眠っている華代にしがみついて泣き始めた。
僕の頬に涙が一粒伝った。
無意識に零れた涙だった。
医者は僕らに一礼すると、部屋から静かに立ち去った。
桃は悔しさから床を強く叩いた。
何度も、何度も。
「…くそ…っ…畜生…!
嘘だ、嘘だ…っ!」
病室に桃の哀しい叫び声が響いた。
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