祈り-3
昼休みも終わり、僕は5限目の数学の授業を受けていた。
でも、ついに限界が来た。
もうこんな処に座ってなんかいられない。
華代は手術前には逢えないと言っていたけど、手術後に関しては何にも言っていなかった。
学校を放ったらかして、病院に出発しよう。
またさっきと同じように保健室へ行きますと言って教室を飛び出そう。
机の横に掛けてあった大きなラケットバックを引っ掴もうとした――その時。
放送を知らせる音楽が鳴った。
授業中に放送――?
教室が騒然とした。
僕は何故か背筋が凍る思いがした。
《至急連絡いたします。
3年、不二周助君。
2年、桃城武君。
1年、不二愛さん。
職員室まで来て下さい。
繰り返し放送します――》
放送の声には焦りが滲み出ていた。
クラスメイト全員が僕を見ていて、視線が突き刺さる。
僕は周りの音が聞こえなくなる現象に陥った。
ただ自分の鼓動だけが煩く聞こえた。
僕は無意識に立ち上がったけど、それから身体が硬直して動けなかった。
授業中に放送が入るくらいだ。
もしかして、華代に何か――
「不二!!」
「…っ!」
英二の声で僕は我に返った。
僕の隣で英二は立ち上がっていた。
「行けよ、早く!!」
英二は僕のバッグを掴むと、僕に押し付けた。
僕は無言で頷き、英二からバッグを受け取るや否や、職員室まで一目散に駆け出した。
転倒しそうなくらいの勢いで階段を下りた。
両足が悲鳴を上げたけど、気にする余裕はなかった。
何も考えられず、頭の中は真っ白だった。
職員室に着いた時には、僕よりも職員室から教室が近い愛と桃の二人は既にその場に到着していた。
二人共走ったみたいで、息切れしていた。
「お兄ちゃん!!」
愛は僕を見つけると、駆け寄ってきた。
愛の目は涙で一杯になっていて、桃は今にも泣き出しそうだった。
二人の表情を見て悟った。
何かあったんだ、唯事じゃない。
愛は僕の服を掴んで、叫ぶように言った。
「華代が…華代が…
意識不明の重体だって…!!」
お願いです、神様。
これは夢だと言って下さい。
嘘だと言って下さい――
2009.2.7
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