小さな婚約-3

「これは婚約って言っても、そういうお堅い事じゃなくて…何て言うか、婚約の約束というか…。」

僕は不自然な口調になっていた。
君は目を見開き、暫く黙っていた。
僕は静かに返事を待った。

『…先輩…私こんなですよ?』

「こんなだなんて思った事はないよ。

まだ付き合って間もないけど、僕は君が運命の人だって確信しているんだ。」

分かるんだ。
僕には君しかいないって。

『手術だって成功するか分からないんですよ?』

「僕は華代がいい。

君じゃなきゃ駄目なんだ。」

僕は泣き出しそうな君をそっと抱き締めた。
君は僕に縋り付くように抱き締め返してきた。

『先輩、本当に私で良いんですか?』

「君が良いから渡しているんだよ。」

『ありがとう……先輩。』

泣いている君の頭をよしよしと撫でると、僕は君を軽々とお姫様だっこした。
泣き顔できょとんとする君が可愛い。

「婚約成立。」

僕は君をベットに下ろし、ドサッと押し倒していた。
華代の艶やかな髪がベッドに広がった。
私服のフレアスカートがよく似合っている。

『あの…先輩?』

見えないからか、君はこの状況を上手く把握出来ていないみたいだ。
僕は開眼して、ふっと笑った。

「抱きたいな。」

『?!』

君は先程よりも目を大きく見開いた。
こんなに驚いている君の顔は見た事がない。
少しからかってみたかっただけだけど、成功したみたいだ。
僕は君の頬を優しく撫でた。
透明感のある肌は幾ら触れても飽きないし、触り心地が柔らかい。
華代は頬にある温もりに安心したのか、僕の手に自分の手を重ねた。

『……いいですよ。』

「……!」

今度は僕が驚いた。
息を呑み、慌てて弁解した。

「ま、待って、華代。

からかいたかっただけなんだ。」

冗談のつもりだった。
僕に翻弄されて頬を染める君を見るのは、愛らしくて堪らないから。
まさかこんな風に許可が出るとは思いもしなかった。

『先輩が大好きだから、構いません。』

君は真っ赤だけど、微笑んでいた。
僕の理性の糸が脆くなる。

「でも華代…やっぱり駄目だ。」

『先輩、お願い。』

君が如何してこんなにも願うのか、理由が分からなかった。
僕は初めてだし、きっと君もそうなのに。

「駄目だよ、避妊具だって持っていないんだ。」

『愛なら。』

「!」

何か知っているみたいだね。
華代は何の問題もないような笑顔を見せた。
僕は頭の中で欲求と戦った。

「もし始めたら、止まらないよ。

…いいのかい?」

君は涙目で微笑み、優しく頷いた。
僕が君の唇にキスをすると、首裏に腕を回して応えてくれた。
僕らはその夜、契りを交わした。



2009.2.6




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