決意-3
「不二先輩が起きてる!!?」
「お兄ちゃん!!」
愛は大喜びで僕のベッドへ駆け寄ると、のしかかるように抱き着いてきた。
うっと詰まるような声が思わず出た。
桃は自分の腕に顔を埋め、唸りながら涙を堪えていた。
さっきの愛の勢いで、花弁が数枚舞っている。
桃が華代の顔を覗き込んだ。
「おい華代、大丈夫かよ。」
「華代?
お兄ちゃんが泣かせたの?」
「ちが…いや、そうかもしれないね。」
桃は未だに泣いている華代の背中を擦った。
苦笑する僕にムッとした愛は、一杯の花を片手に花瓶を手に取っていた。
飾ってくれるみたいだ。
「ふう…お兄ちゃんが起きたらちょっとだけほっとした。」
肩の力を抜いた愛に、僕は微笑んだ。
この四人で笑い合えるのが本当に嬉しかった。
「お見舞いに来てくれたのかい?」
「うん、菊丸先輩だって時間があれば来てたよ。
3日前なんて男子テニス部レギュラー全員で来たんだから。」
「え…?」
3日前?
愛の台詞の理解に遅れた。
桃の愛が目を瞬かせている僕に言った。
「不二先輩ってば全然起きないから、ほんと心配したんスよ!」
「このまま寝っぱなしかと思って怖かったんだから。
1週間も寝っぱなしだったんだよ。」
1週間も?
華代が俯いたまま頷いた。
僕は眉間に皺を寄せ、心配させたのを申し訳なく思った。
桃が華代の頭をくしゃっと撫でた。
愛は華代の背中を優しく摩った。
「華代も毎日お花を替えに来てたのよね。」
愛がにこにこしながら言うと、華代は耳まで赤くなった。
「このお花は男子テニス部から。
お兄ちゃん愛されてるね。」
愛は部屋に設備されている水道から花瓶に水を入れ、色とりどりの花を窓際に飾ってくれた。
病室が華やかになった。
「後遺症の心配はないみたい。」
「本当に?」
頭の片隅で心配していた事がまた一つ解けた。
歩けなくなったら如何しようかと不安だった。
「何も心配しないで、2ヶ月治療に専念してね。
分かった?」
「分かってるよ。
でも関東大会に出られないね。」
「大丈夫だよ。」
まるで母親気取りの愛。
桃は華代の背中を依然と擦りながら、それを見て微笑んだ。
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